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経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 石塚康志氏に聞くOSS推進の理由と活動の展望
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— 普及に向けての具体的な取り組みの例を教えてください


石塚氏:昨年は学校で、今年は学校のほかに自治体にもOSSを導入する実験を行っています。この実験によって、どういう問題が生じるか、オフィスユースではこういう機能が足りないとか、こういうサポートがいるとか、そういう議論が出てくると思います。

石塚康志氏    あとは、やはりTCOですね。どこにお金がかかるのか。今使っているシステムと比較して、どのくらいサポートにお金がかかるのか、インストレーションの手間がどう違うのか、きちんと分析してもらおうと思っています。そういう機能面とコスト面のデータを収集し、開示して、そのうえでみなさんに比較検討していただければと思うんですね。そのベーススタックとなるような情報の収集を、去年は学校、今年は学校と自治体にお願いしていくことになってます。

   企業のような大きな組織が大掛かりにOSSを導入する場合、それを利用するエンドユーザとシステムを導入する側の間には大きな意識のギャップがあるのも事実です。たとえば調達コストの観点から見た場合、本当にシステムを変えることに意味があるのかという議論です。その辺りは自治体や学校、私たち行政が主体になって、大きな組織に一定数を導入するときにTCO、機能面、LAN環境などの観点から検討する必要があります。

   今までできたことができなくなったということも出てくるでしょうし、それをどう直せばいいのか、あるいは業務分析に寄らせたカスタマイズなんかいらないという議論も出てくるでしょう。システムが変わることによる難しい面についても、データを提供できればいいなと考えています。


— OSSを普及させるうえではまだ情報が不十分だということですね?

石塚氏:そもそも普及するときの問題点は何かというと、OSSは商用ソフトウェアと何が違うのかということに帰結するわけです。OSSに関していえば、開発コミュニティはあるけれど、普及ストラテジーを組んでくれる人がいない。プラットフォームをプラットフォームならしめるためのマーケティング、というと矮小化されてしまいますが、OSSというプラットフォームをメンテナンスしてビジネスをしていくための、広い意味でのサービスが必要とされていると思います。

   たとえばインテルでは、IAL(Intel Architecture Labs)がUSBやAGP規格の提案からインテルのチップ上で動作するソフトウェアの開発環境の整備まで行っていますよね。OSSにおいても、単なる技術情報の提供から、プラットフォーム上で動くデバイスについてのプロトコルの標準化まで、ビジネスの普及のためのさまざまな支援サービスをストラテジックに行う必要があります。OSS推進フォーラムにはそういうことを期待して、私たちは何でもお手伝いさせていただきたいと思っているわけです。


— OSSへの投資をもっと大きくしていこうという方向性でしょうか


石塚氏:国費を投入する金額が増えるのかということであれば、必ずしもそういうことではないと思っています。

石塚康志氏    OSSのどれに着目するかということで議論は分かれますが、やはりプラットフォームの機能を持つOSSについては、選択肢となり得るようにすることが今のところの主眼ですから、まずプラットフォームとしての環境を整備することになります。OSSは、特定の人間が管理しているわけではありませんし、また開発をしている方とエンドユーザの間で意識がずれていますので、その辺りをいかにパブリックな基盤として整備するかにかかってくると思います。

   そうなってくると、単純に国費を投入するということではなくて、それぞれのベンダーさんにやってもらうということもあります。また、どうしても必要となるクリティカルな開発はやらなければなりません。金額が増えることもありますが、お金の問題ではないと思います。


— 基盤の整備とは、具体的にはどのようなことをされるのでしょうか

石塚氏:決して今関わっている開発コミュニティの方々を非難しているわけではないということをお断りしておきますが、カーネルだけでは何も動かないんですよね。

   最終的にエンドユーザに提供するためには、ライブラリの整備やコンパイラの性能の問題もあるし、今のディストリビューションの中に含まれているパーツは多数あるわけです。これらが共通認識のもとでアップデートされていくのが、先ほど申したプラットフォームのメンテナンスだと思うんですよ。どのようなアプリケーションが特定のディストリビューションで動くのか動かないのか、あるいは性能を発揮するのかしないのかなど、それらを情報として蓄積し、開示することが大事だと思うんですよ。

   要はコミュニティの皆さんがカーネルおよび主要パーツの機能向上に努力をされているときに、こぼれ落ちてしまうようなニッチなニーズを拾い上げて情報提供できればと思っています。IPAのほうではOSSに足りないものを補完するお手伝いをしていただいてます。

   OSSできちんとしたシステムを作ろうとすると、当然足りないものが出てくる。たとえば日本語環境で使うときに必要なものや、オープンプリンティングソフトウェアなど、本当にリッチな機能を使える細かい孫の手がほしいんですよ。足らざるところを補えるような開発スキームを作れるかどうかがポイントになります。各種の公募事業などを通じて、そういうことができないかと考えています。
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