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経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 石塚康志氏に聞くOSS推進の理由と活動の展望
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— 日本発のソフトを育てるとか、OSSのリーダーシップをとるといった意図はないのでしょうか

石塚氏:日本発ということで申し上げますと、「貢献」に関しては意識しています。開発コミュニティに日本がいかに貢献しているかという視点は必要だと思います。ディストリビューションやパッケージの選択において、日本あるいはアジアからの情報や要望の発信が増えることは大事だと思います。

石塚康志氏    ですから、日本・アジアで検討された各種の要望なりシステムなりが開発コミュニティに受け入れてもらうためには、当然開発コミュニティに貢献していくことが必要だと思います。日本発という意味では、産業技術総合研究所や情報処理推進機構、あるいはそれぞれのベンダーさんに頑張っていただきたいですね。それについて我々が何かお役に立てることがあれば、もちろんやらせていただきたいという立場なのです。

   また、リーダーシップというのは言い過ぎですが、日本ではせっかくこういう体制でやっているわけですから、他国から見て日本はOSS推進に貢献してくれるよね、日本のあのエンジニアはよくやっているよね、というリスペクトを受けられるような体制にするのは大事だと思っています。そのためには、開発に関わる人を支援をしたほうがよいことになりますね。でも、あまりにも行政が支援することが良いかどうかは、私たちにとっても悩ましいところではありますが。


— 人材の育成についてはどうお考えですか?今までのプロプライエタリシステムの場合は企業が先に立っていましたが、オープンソースの醍醐味は個人の優秀なエンジニアに光が当たることだと思われます。そこを経済産業省が後押ししてくれると、我々としては希望が持てるわけですが

石塚氏:重要なスキルを持っているソフトウェア開発者に着目したいということは、我々がずっとやっていることなんですよね。1つの象徴はIPAの「未踏ソフトウェア創造事業」です。あれは天才を発掘しようということなんです。

   先ほどOSSを推進する理由の2つ目としてあげた、ソースコードをきちんと読もう、改良しようというのは、実はそこなんですよね。そもそもOSSの場合は、重要なモジュールなり根幹の部分のカーネルについて貢献した人は評価されるという仕組みになっていますね。「伽藍とバザール」に始まって「魔法のおなべ」に至るという、まさに一種の評価の文化、それを定着したいというものもあります。

   この国からビル・ゲイツさんを出したいですよね。あるいはリーナス・トーバルズさんを出したいですよね。国がやらせていただく技術関連支援事業というのは会社にお金を出すことが多いわけですが、「未踏ソフトウェア創造事業」では個人にお金を出すわけです。だから、もちろん会社で働いている方にも支援をしますが、それは会社にお金を払っているんじゃなくて、個人に出しているんです。ですから学生さんでもかまいません。


— 神戸にオープンソースを使って教育する専門の大学が出てきました。経済産業省としては大学教育に取り組むのは無理なのでしょうか

石塚氏:大学などでコンピュータサイエンスを修めた方が企業に入って即戦力で使えないといった問題は、実はずっと以前から指摘されています。だから、経済学部出身のSEというのは山のようにいるわけですよ。こんな現象は日本だけで、ほかの国では考えられないかもしれません。

   これはオープンソースに限りませんが、大学での実践的な教育については、去年から大学と企業の協調の下で、実践的教育のノウハウについて提案をいただいて、実際に大学で学生を教えてもらう試行を始めています。

石塚康志氏    今年もすでに公募を始めていますが、具体的には、卒業生がソフトウェアハウスやSI企業に入ったとき、それなりに即戦力になるような教育っていうのはどういうものかというカリキュラムを作っていただいて、実際に学生さんに教えていただいています。何がだめなのか、なぜだめなのか、どうしてそういう教育が大学に定着しないのかということを、3か月あるいは6か月かけて実地にカリキュラムをこなしていただいて、分析・評価していこうと思っているんです。


— 失礼な質問かもしれませんが、石塚さんはとてもオープンソースに詳しいですね。独学で勉強されたんですか?

石塚氏:昔はX Window Systemのコンフィギュレーションファイルを作らなきゃいけなかったりして、色々遊んではいました。チップのビルド番号を調べたり、マシンをバラしてみたり。Linuxのカーネルが1.xxの頃ですから、前世紀ですよ。でも遊びでしたから、最近はもうやっていないですね。


— 将来、ソフトウェア産業にとって、OSSがどのような位置づけになれば良いと思われますか

石塚氏:それなりのマーケットポジションが取れるところまで普及するというのが1つありますよね。それが5割なのか6割なのか、9割なのかといっても仕方ありませんし、また別のものが出てくる可能性もありますけれども。あとは、そういうマーケットの観点とは別の観点から見たものとして、ソースコードをきちんと読もうとする文化を守りたいですね。


— 一方で、OSSがますます発展すれば、ソフトウェアベンダーにとってかなり脅威になると思われます。実際のビジネスに影響が出始めているベンダーさんもいらっしゃると思うのですが

石塚氏:オープンソースの中で世の中に最も普及しているものがOSなら、それはクリステンセンのいう「ディストラクティブイノベーション」(Destructive Innovation)であって、OSを巡るビジネスが大きな転換点にあるのかもしれません。それを押し留めてみても意味のないことで、私たちがお手伝いするしないに関わらず、転換・破壊されていく部分はあるのではないでしょうか。

   もしOSSを使うことでエンドユーザにコスト面、機能面での一定の効用があるならば、自然な流れで利用されていくでしょう。私たちがお手伝いすることによって、そのスピードが少し速まるかもしれませんが、もしそうなるなら、できるだけ早く新しいレントの源泉を探したほうがいいんじゃないかということになります。


— どうもありがとうございました。


経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 石塚康志氏

経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課
石塚康志氏

大学卒業後、平成4年、通商産業省(当時)に入省。その後、調査業務、保安規制業務、家電産業担当等の部署に配属後、平成10年より、機械情報産業局(当時)情報処理振興課において、ソフトウェア産業振興関係の業務に従事。その後、平成13年には、石川県庁商工労働部産業政策課出向、公正取引委員会出向を経て、平成17年5月より現職。

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