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第5回:Flashを取り込んだAdobeのユニークAjax戦略

著者:ピーデー  川俣 晶   2007/4/11
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Adobeは「非主流の絶対的主流」の代名詞

   「Adobe」というブランドは、一言でいえば「非主流の絶対的主流」とでも表現すべき、非常にユニークな存在といえる。その存在は、これまでに紹介してきた他のブランドとは完全に一線を画している。

   例えば、Microsftはパソコン、Yahoo!はインターネットの絶対的主流ブランドであり、Googleはその地位を奪いつつある存在と位置づけられる。しかしAdobeというブランドは、そのような意味での絶対的主流ブランドではない。

   むしろ、絶対的主流ブランドに迎合せず、我が道を行く「非主流ブランド」といった方が的確なのではないかと考えられる。そして、非主流を行っているにも関わらず、特定のジャンルでは絶対的な主流の立場を固めてしまうのだ。

   このようなAdobeの状況を、ざっと歴史を振り返ることで確認してみよう。

PostScriptにみるAdobeの歴史

   まず、Adobeの名前が世界に知れ渡った契機は、1980年代後半に起こったMacintoshによるDTPブームにあるとみてよいだろう。このとき、Adobeは「PostScript」という美麗に印刷を行う画期的な技術の提供者として名前が知られるようになった。

   しかし、この時点で2つの意味でAdobeが非主流の方向性を示したことは間違いない。

   1つ目は、当時(現在も)もっともシェアの大きかったIBM-PCとその互換機ではなく、あえて2番手のMacintoshを活躍の舞台としたことだ。結果としてDTP、ひいては印刷業界において非主流であったはずのMacintoshが絶対的な主流ブランドとして君臨することになる。

   2つ目は、Macintoshのアーキテクチャに真っ向から逆行する技術によって、Macintoshの価値を高めたことである。これは説明を要するだろう。本来、Macintoshが発売された当初の目玉は「WYSIWYG」、つまり画面で見た通りの内容がプリンタで打ち出せることであった。

   この思想は徹底的に貫徹されていて、画面とプリンタの解像度は一致可能となるように設計され、画面上の1ピクセルが印刷結果上でも1ピクセルと厳格に決められていた。さらに画面上で3cmのものはプリントアウトも3cmとなる。つまり、画面に表示しているものと同じ品質のものを印刷でも手にいれられるということだ。

   もちろん、それは良いことばかりではない。画面とプリンタの解像度が同じということは、画面上で見えるジャギー(ギザギザ)が印刷結果にもあらわれてしまうというデメリットも抱えていた。

   しかし、PostScript技術は「定規で測ったサイズが同じ」であることにはこだわったものの、ピクセルを維持することは完全に無視した。その代わりとして、常に美しい曲線を「解像度に関係なく」再現する方法を選択した。

   これは、本来のMacintoshの思想からすれば大きな裏切りであり、あえて非主流のやり方を選んだことになる。しかし、PostScriptはユーザから好意を持って迎えられ、DTPにおける絶対的な主流技術となった。

   そしてAdobeは、Adobe IllustratorやAdobe Photoshopといった優秀なデザイン用アプリケーションのリリースを通して、デザイナー層から絶大な支持を受けるブランドとなった。例えば、一時期Photoshopキラーとして取りざたされたオープンソースによるグラフィックツールの「GIMP」があるが、少なくとも筆者の周囲でこれを常用している人はほとんどいない。

   使用ソフトとしては圧倒的にPhotoshopが多く、今のバージョンは使いにくいから過去のバージョンを愛用するという人はいても、Photoshopから別のソフトウェアに乗り換えるという話は滅多に聞かない。実に絶大かつ圧倒的な支持である。

   このように、非主流が絶対的主流につながるのが、Adobeというブランドとその周囲に見られる典型的なパターンといえる。

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株式会社ピーデー 川俣 晶
著者プロフィール
株式会社ピーデー   川俣 晶
株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、Microsoft Most Valuable Professional(MVP)、Visual Developer - Visual Basic。マイクロソフト株式会社にてWindows 3.0の日本語化などの作業を行った後、技術解説家に。Java、Linuxなどにもいち早く着目して活用。現在はC#で開発を行い、現在の注目技術はAjaxとXMLデータベース。


INDEX
第5回:Flashを取り込んだAdobeのユニークAjax戦略
Adobeは「非主流の絶対的主流」の代名詞
  インターネットでも起こる非主流から絶対的主流の流れ
  WebデザイナーのためのAjaxフレームワーク「Spry framework for Ajax」