【新・言語進化論】アレで使われている言語って何?
第3回:cell computing βirthでハイビジョンアニメを作る
著者:NTTデータ 古矢 満
公開日:2007/11/16(金)
デジタルハイビジョン時代のアニメ制作の悩み
今週の「アレで使われている言語って何?」は予定を変更し、2007年11月15日にスタートしたばかりの分散コンピューティングプロジェクト「デジタルハイビジョン環境における第3世代アニメーションの研究と実証(HD-Animation)」についてお届する。
このプロジェクトは、有限会社WHIRLWINDと株式会社イージア、そして株式会社NTTデータの3社によるもので、cell computing®技術を使って1080p、1920×1080ドット、30FPS、のフルHDアニメーション作品のパイロット版製作を行うことを目的としている。
従来の2Dによるセルアニメーションやフル3DCGによる作品ではなく、2Dと3Dを合成したものとなる。今回制作する作品は、幻想的な洋館の中で物語が展開するホラーアニメーション。作品タイトルは「The Bride」だ。
このプロジェクトのは大きく分けて2つの層から成り立っている。その1つが、NTTデータが培ってきた「cell computing®」による分散処理だ
インターネットを介して一般ユーザと利用しているPCの参加をつのり、これまでに「自然免疫系遺伝子領域解明」や「タンパク質分子表面類似性網羅的探索」といったプロジェクトを行っている。
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
そしてもう1つの層が、Javaによる分散レンダリングエンジンの存在だ。今回のプロジェクトではWindowsとMac OS X、そしてLinuxという3つの異なるOSで、すべて同一のJavaレンダリングエンジンを活用し、分散レンダリングを行っている。
なぜ分散コンピューティングでアニメーション制作なのか
このプロジェクトの目的の1つに、ハイビジョン規格によるアニメーション制作における「予算」と「時間」の問題への挑戦、というものがある。
現在のアニメーション製作は、SD規格(アナログTV/NTSC、640×480)が標準で、高精細といわれるものでも予算と時間の関係からハーフハイビジョン(1280×720程度)で製作し、アップコンバータを通すことで対応している状況だ。
実は画面画素数で比べた場合、従来のSD規格からハイビジョン規格の間には約8倍の開きがある。さらに3D-CGを作成する場合、奥行きの計算も追加されるため、実際には約27倍の計算量となってしまう。
また過去の経緯からアニメーションでは「3コマ撮影(毎秒8枚)」による制作が主流だが、ハイビジョンでは30FPS(毎秒30枚)が必要とされるため、製作時には従来よりさらに大量の演算が必要となってしまう。
2年程前に25分のフル3D-CGアニメーションがSD規格のビスタサイズで作成されたことがある。このときの演算終了までの時間は、約2年必要だったといわれてる。もし当時のシステムのままハイビジョンアニメーションを製作した場合、約50年近くの演算時間が必要という計算になる。
この膨大な計算量を1台のマシンでまかなうことは物理的に不可能なため、cell computing®を活用した分散コンピューティング技術が求められているのである。 次のページ