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「人工心臓」での職場復帰を目指す仏Carmatに立ちはだかる壁

2016年9月30日(金)
ReadWrite Japan

我々は人工股関節置換や補聴器などの人工物の移植によって人々の健康をより増進させる時代を生きている。

フランスの企業 Carmatは、人工心臓の開発に15年間取り組んでいる。この人工心臓は、末期の心臓病を患い、手術をしなければ余命二週間もない人たちの心臓を丸ごと取り換えることのできる装置である。つまり、体内完全埋め込み型の人工心臓だ。彼らは2013年に臨床実験を開始している。

先日、彼らはヨーロッパでの認証を受けるため、2017年に2度目の挑戦をおこなうと発表した。Carmatの人工心臓は、末期の心不全の患者が移植手術待ちの間をつなぐために使う一時的なものを目標としているのではない。ドナーを待つ期間を延長させることはもちろん、患者の退院やさらには職場復帰さえ可能にすることを目指している点で他社のデバイスとは異なっている。

どのように動作するのか

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Carmatの設計では2つの心室がそれぞれ皮膜に隔てられており、片側は作動液で満たされている。モーターポンプにより作動液が心室から出たり入ったりし、皮膜を動かし血液を循環させる仕組みだ。血液に触れる面はウシの心臓を覆う嚢から採取された組織でできており、デバイス自体は生体適合性のあるものにしている。

Carmatのデバイスはウシの心臓組織から作られた弁も採用しており、昇圧を検知するセンサーも組み込まれている。その情報は内部コントロールシステムに送られ、患者が運動したときなど血流の需要の高まりに応えて流量をコントロールする。

人工心臓は動力源、モニター設備、病院のコントロールシステムといった外部システムと接続されており、術後の期間や通院中、また退院するときに身に着けられる動力源 兼 コミュニケーションシステムとして機能する。

新しい心臓は精密科学ではない

人工心臓移植の成功は、いまのところ研究期間中におこなった4名の患者のフィジビリティトライアルの成功をもって語られているものであり、ここでいう成功とは「30日以上の生存」を指す。彼ら4名は現在、すでに亡くなっている。

Carmatの1人目の移植患者は術後2.5ヶ月の2014年3月に、おそらくデバイスの不良のため亡くなった。2人目は移植後9ヶ月の2015年5月に亡くなっている。Carmatによると、この2人の死は「血液のデバイスが作動するための流体を保持する部分へわずかな漏れが発生し、電子エンジンコントロールに支障を生じたため」だとされている。

3人目は、「慢性の腎臓疾患が引き起こした呼吸不全」で9ヶ月後に亡くなった。患者は「さまざまな重病に苦しんでおり、特に腎臓疾患については心臓移植以前にそのように診断され、定期的な通院を必要としていた」という。このとき患者が亡くなった後も心臓は動き続け、「医療チームは患者の死亡を確認したうえで人工心臓を止めた」と言われている。さいごの4人目は、術前からの持病が術後に合併症を引き起こし亡くなった。

Carmatはヨーロッパでの承認を得るため、25名の患者を対象に臨床試験をおこなう予定だ。「今回の目標は、術後3ヶ月以上の生存だ」とCarmatのCEO マルセロ・コンヴィティ氏は語る。

「2017年内にすべてのデータを提出し、2018年には欧州基準を採用するいくつかの国での販売したいと考えている。」

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人工心臓と暮らす未来?

誰かの心拍がスマートフォンによって刻まれる、などという未来予想者の夢の実現にはまだまだ遠いことは明らかだ。International Business Timesによると、超人間主義者 ゾルタン・イストヴァン氏は将来、「人工心臓はWiFiを備え、スマートフォンを使って心拍数を状況に合わせて変えることができるようになる」と予見しているようだ。また、彼は人工心臓がハッキングされるリスクも認めている。

人工心臓(であれペースメーカーであれ)がハッキングされた明白な証拠はない。だが、その恐れはまぎれもなく実在するものだ。たとえば2014年には、元副大統領のディック・チェイニー氏が心臓移植を受けた際、彼を暗殺するためにハッキングされるリスクを恐れて無線機能を無効化したことを彼の専属医が明らかにした。顔を見たこともない人物が自分の心臓を好き勝手できる可能性があるというだけで、心臓が止まりそうだ。

また、他の研究では、インスリンポンプなどの医療デバイスにセキュリティ上の脆弱性があることを示している。バイオメトリクス技術とロボティックデバイスの組み合わせが重度の患者の生活を支える役目を負うということを考えると、人工心臓との暮らしの実現を目指すCarmatの立場は危うくなるだろう。

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ReadWrite[日本版] 編集部
[原文4]

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