「KubeCon NA 2022」から、VMwareが行った既存のイメージを壊すプレゼンテーションを紹介

2023年3月2日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon NA 2022からVMwareのカジュアルなキーノートセッションを紹介する。

KubeConというイベントのコアとなるソフトウェアはもちろんKubernetesであるが、そのKubernetesによってインフラストラクチャーを仮想マシンからコンテナベースに移行した場合、往々にしてデベロッパーにインフラストラクチャー側の知識と経験を要求することになる。プラットフォーム側のエンジニアリングチームは、これを避けるために直接Kubernetesを触らせずに「as a Service」的な抽象化されたプラットフォームを用意することで、デベロッパーの負担を下げ、すぐに開発に取り掛かれるように工夫している。これは多くのエンタープライズ企業で行われていることだ。

VMwareは企業内でのITプラットフォーム仮想化をメインストリームに押し上げたリーダー的な企業だ。KubeCon NA 2022で行われた2日目のキーノートセッションでは、プラットフォームの抽象化ではなくサーバーレスとGitOps、そしてオープンソースソフトウェアを使ってデベロッパーがインフラストラクチャー側の知識や作業を不要とする一連の流れを、デモを通じて訴求していた。今回はこのキーノートセッションを紹介する。

●動画:https://www.youtube.com/watch?v=eJG7uIU9NpM

「What a RUSH! Let's Deploy straight to production!」と題されている通り、デモアプリケーションを修正して、本番環境に実装する流れをデモとイラストで説明するものだ。このセッションが際立っていたのは、すべて手描きのイラストを使って行われたこと、そしてVMwareが販売するサービスやサポート、VMwareのクラウドプラットフォームのブランディングであるTanzuについてすら一切言及しなかったことだ。これまでのVMwareはエンタープライズ企業向けのイメージとして硬い感じのスライド、プレゼンターもスーツが似合うビジネスパーソンが商用サービスを売り込むというイメージが強かったが、今回はそのスタイルを180度変更して臨んだということになる。

プレゼンテーションを行ったのはWhitney Lee氏とMauricio Salatino氏の2名で、イラストと録画されたデモ動画を使って約15分のセッションを行った。どちらもジーンズにスニーカーというオタクスタイルだ。

大まかな流れは、RainbowというGoで書かれたサーバーレスアプリに変更を加えて、虹に蜘蛛を追加するというものだ。アプリケーション自体は複雑ではなく、開発環境のセットアップからKnativeのファンクションに変更をGitでマージ、その後、ArgoCDで本番環境に更新を行うという流れを解説している。

イラストを使ってアプリケーション全体を解説するLee氏

イラストを使ってアプリケーション全体を解説するLee氏

デモの全体像はこのイラストで解説されている。

デモの全体像。CI/CDを通じてアプリケーションが本番環境に実装されるまでの実演

デモの全体像。CI/CDを通じてアプリケーションが本番環境に実装されるまでの実演

ここではデベロッパーが左上、その下にインフラストラクチャーチームが置かれている。Gitに収められたソースコードが変更されるたびにArgoCDによるCIが実行され、QAチームがテストを行い、最終的にArgoCDを使って本番環境にアプリケーションがデプロイされていくようすが描かれている。

目標は本番環境に最新のアプリをデプロイすること

目標は本番環境に最新のアプリをデプロイすること

このセッションのポイントは、アプリケーションデベロッパーがKubernetesやセキュリティなどの詳細な設定を行わなくてもインフラストラクチャーチームが用意したプラットフォームの上でソースコードの修正だけを行って設定ファイルやDockerfileを書かなくてもコードが本番環境にデプロイされるという部分だ。実際にはKnativeのアプリをビルドするのにBuildpack、その他にもvclusterなどが使われている。

CIの段階ではKnativeやHelmなどが利用されている

CIの段階ではKnativeやHelmなどが利用されている

この内容のコードから本番までの流れをデモとして提示することは、レガシーがないクラウドに特化したベンチャー企業であれば常識的な開発から運用までの流れと言える。それをVMwareという多くの顧客がレガシーな仮想化環境を抱えていることを知っている企業が提示したという部分を評価したい。しかもTanzuという自社が最も推しているブランディングを使用せずに、CNCF配下のプロジェクトをそのまま使ってデモを構成しているのがポイントだ。

デベロッパーには負担をかけずにインフラストラクチャーチームがGitOpsを用意

デベロッパーには負担をかけずにインフラストラクチャーチームがGitOpsを用意

このデモは、デベロッパーにはYAMLやその他の運用のための設定に悩んだりせずに、セキュリティやコンプライアンスなどに準拠したビジネスロジックを実装できることを示している。ビジネスロジックはKnativeのサーバーレスアプリで記述して、GitOpsの作法に従ってコードをリポジトリにプッシュすれば、それ以降のプロセスが自動化され、開発環境でのCI、ステージングから本番環境までのCDまでが行えることになる。

このセッションを取り上げたのは、VMwareが自社の宣伝を抑えてでもオープンソースのデベロッパーの印象を良くしようと努力していることを感じたからだ。カジュアルなイラストと商用の香りを排した内容が本当にデベロッパーやインフラストラクチャーのコミュニティにアピールするのかどうかは、これが継続できるのか、それとも一発芸に終わるのかにかかっていると思われる。

デモは、以下のGitHubリポジトリにドキュメントからコードまでがすべて納められている。VMwareの公式ページではなくSalatino氏の個人ページというところも意図的にやっているのだろう。

●デモのチュートリアル:https://github.com/salaboy/kubecon-na-keynote

VMwareが今後のKubeConにおいてもこのスタイルを続けていくのか、もしくは商用サービスであるTanzuをメインにしていくのか、注目していきたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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