技術レビュー演習のWeb上体験

2009年3月31日(火)
野中 誠

高齢者在宅監視システムのソフトウエア要求(初期案)

 「仕様書をレビューしても、文章表現上の指摘しかできない」「チェックリストに書いてあることの真意が分からない」「重要な問題なのに、つい見逃してしまう」。

 今回は、こんな悩みを抱える方にちょうどよい規模のレビュー課題を提示して、技術レビュー演習の機会を提供します。30分程度で結構ですので時間を確保して、以下に示したソフトウエア要求の初期案を読み、技術的な観点で問題がないか、どのような観点で仕様をチェックすべきかなど、考えてみてください。

 システムエンジニアのあなたは、発注者が考えた「高齢者在宅監視システム」のソフトウエア要求(初期案)をレビューする立場にいます。これは、独り暮らしが十分にできる高齢者専用の集合住宅に据え付けるシステムです。

 図1は、このシステムのブロック図です。開発対象は、中央にある「制御ソフトウエア」です。このソフトウエアは、「施錠センサー」「マイコン内蔵水道メーター」「警備員呼出ブザー」の3つのセンサーから入力イベントを受け取り、高齢者の在/不在に応じて適切な信号を「生活情報監視パネル」と「通信機器」に出力します。

 「施錠センサー」から制御ソフトウエアに入力されるイベントは、「1.中から施錠」「2.中から解錠」「3.外から施錠」「4.外から解錠」の4つです。

 「マイコン内蔵水道メーター」から入力されるイベントは、「1.流量ゼロ警告(流量ゼロが12時間以上続いたときに発生)」「2.流量ゼロ警告解除(警告中に水が流れたときに発生)」の2つです。

 「警備員呼出ブザー」から入力されるイベントは、「1.呼出ブザー押下」「2.呼出解除」の2つです。

 「生活情報監視パネル(以下、パネル)」は、集合住宅のそれぞれの部屋について「在室」または「不在」のどちらかの状態を表示します。

 「通信機器」は、流量ゼロ警告または呼出ブザー押下のどちらかのイベントが発生したときに、制御ソフトウエアの指示により、警備員呼び出し要求を警備会社へと送信します。

 なお、ここまでの仕様はすでに確定していて、変更されることがないとします。

レビュー演習(その1)

 「制御ソフトウエア」の振る舞いとして、発注者が考えたソフトウエア要求の初期案は次の通りです。

1.扉を中から施錠すると、パネルに「在室」と表示される。
2.扉を外から施錠すると、パネルに「不在」と表示される。
3.在室時に中から解錠しても、パネル表示は「在室」のままとする。
4.不在時に外から解錠しても、パネル表示は「不在」のままとする。
5.在室時に流量ゼロ警告が発せられる、または呼出ブザーが押下されると、警備員を呼び出す。
6.不在時に流量ゼロ警告が発せられる、または呼出ブザーが押下されても、警備員を呼び出さない。

 さあ、あなたの役割を思い出して、このソフトウエア要求の初期案をレビューしてみましょう。レビューの目的は、仕様上の問題を指摘することに限定します。ソリューションを提案する必要はありません。あるいは、この情報ではとてもレビューできる状態にないと思うなら、ユーザーにどのような検討を要求しますか?

 次ページ以降で、このソフトウエア要求に対するレビューについて、具体的に考えてみましょう。

東洋大学
早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程退学。早稲田大学理工学部助手を経
て、現在、東洋大学経営学部准教授。経営システム工学をバックグラウンドとし
たソフトウェア工学研究に従事。情報処理学会ソフトウェア工学研究会幹事、日
本科学技術連盟ソフトウェア品質研究会(SQiP)副委員長などを務める。
Webサイト(http://www.se.mng.toyo.ac.jp/

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