OpenStackのPTLに聞いたOpenStackコミュニティの面白さ、難しさ

2016年5月26日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
OpenStack Summitはコミュニティのメンバーが集まる機会でもある。今回のサミットPTLに就任した日本人プロジェクトリーダーにコミュニティ運営の面白さと難しさを聞いた。

OpenStack Summitはユーザーやシステムインテグレーターだけではなくデベロッパーが集まって議論を深める場でもある。サミットの後半にはデザインサミットと称して各プロジェクトが次期リリースの仕様や問題点について深い議論が行われる。今回、OpenStack Summit Austinにおいて新たにPTL(Project Team Lead)として就任したNECアメリカの大道氏と富士通の加藤氏にOpenStackコミュニティの中の状況とその運営の面白さ、難しさをインタビューした。

NECアメリカの大道氏と富士通の加藤氏

--まずはPTLに就任されたということですので、どのプロジェクトなのかを簡単に紹介してください。

加藤:富士通の加藤です。今回、翻訳、つまりInternationalization(I18n)のプロジェクトのPTLになりました。翻訳というのは簡単に言えばOpenStackを様々な言語に翻訳を行うプロジェクトですね。私自身は3年ぐらい前からOpenStackの翻訳に関わってきました。その前は社内のプロジェクトとしてOpenStackを調べていたという感じです。AWSの代わりとして使えるのか?という観点で。その時は設計はキレイだけど、まだ品質が……という感じの評価でしたね(笑)。OpenStackのリリースで言うとDiabroという4つ目のリリースのころですね。個人的にはFedoraの翻訳をやっていた経験もあります。

大道:NECアメリカの大道です。私はQA(Quality Assurance)のPTLになりました。QAというのは品質保証ということでOpenStackの品質をあげるためのコンポーネントのプロジェクトのPTLになります。他にもNovaのコアデベロッパーでもあります。OpenStackには最初から開発のメンバーとして参加しています。その頃はNovaのAPIのパラメータのチェックという辺りから開発を始めまして、NovaはAPIの数が多いというのもありますが、とにかくアドホックに作られてきたという経緯がありますので、結構大変でしたね。最初は半年ぐらいで終わるかと思ってたら、2年かかりました(笑)。私個人としては、もともとは2006年頃からLinuxのプロジェクトでも同じような開発を行っていたのでコミュニティで開発するという面白さを知っていたんですね。なので会社でOpenStackのプロジェクトに参加する人を募るという機会が合った時に自分で手を挙げました。

--大道さんは最初からデベロッパー、加藤さんは翻訳、ということですが、OpenStackのコミュニティの中ではコードを書く人がエラいんですか?(笑)

加藤:私はコードを書く人がエラいとは思いますので、大道さんはエラいです(笑)。でも、OpenStackの中ではその辺はあまり強くないかもしれないですね。テストをする人もドキュメントを書く人も同じように重要だと思います。

大道:実際にはオープンソース「ソフトウェア」なのでやっぱりコードが無いと始まらないんですが、最初に見られるのはソースコードではなくてドキュメンテーションなので、翻訳は大事なんですよね。ある程度の情報を得るためにはドキュメントを読むのがとにかく最初なので。そういう意味では非常に重要なんです。実はそれが今、Novaで問題になっていてMitakaの次のリリースのNewtonではプライオリティがトップの開発項目です。

--ドキュメントを直す、というのがですか?地味な作業ですよね?

大道:そうなんです。地味ですが誰かがやらないといけないという。それがSwaggerともつながっていくんですが、SwaggerというのはLinux FoundationのプロジェクトになったOpen API Initiativeの中で作られているAPIのフレームワークで、APIを書くとドキュメントも作ってくれるという。

Swaggerについて:http://swagger.io

--あぁ、そこでOpenStackのドキュメンテーションに繋がるわけですね。

大道:そうですね。ただNovaは歴史も古くてAPIも200個以上あるので、なかなか難しいです。特にコミュニティ全体の意思をまとめるという意味では。ひとつのコードを書くにしても、例えばある人にとってみるとどうしてそういうふうに書くのかという背景がありますので、それを理解したうえでこれはこういう風にしようということをプロジェクト全体として決めなければいけないんですね。その辺は難しいところです。

--では今回初めてPTLとしてプロジェクトのミーティングをデザインサミットでやったわけですが、その手応えはどうでしたか?もっとぶっちゃけて言うとうまく回せましたか?

加藤:I18nのプロジェクトはコアな人は10名程度ですが、実際には翻訳をやってくれる人は数えきれないぐらいいます。実際にはコードの中のテキストを単に翻訳すればいいだけではなくて、翻訳に関係するツールを直さなければいけなかったりするんですね。そういう意味ではそんなに簡単なプロジェクトではないということを知ってもらえればと思います。ミーティングに関して言えば言語ごとにコーディネーターがいるのでその人達とも話し合いながら進めています。用語集を作ったほうが良いよねとか話をしています。今回も10名ぐらいで話をしましたが、まあうまく回せたかなと。

大道:QAのプロジェクトに関してですが、今回は完敗でした(苦笑)。それはどうしてかというと先代先々代のQAのPTLだった人がいてその人達の経験と知識にはかなわないんですね。なのでだいぶ彼らに依存してしまったので、PTLとしてはあまりちゃんと仕事ができなかった気がします。その意味で先輩たちにミーティングをリードされてしまったと言う意味で完敗でした。でもその先輩たちからは今回はイイけど、あと3ヶ月ぐらいでなんとかしようよ、とは言われています。なのでとにかくコツコツとやっていくいしか無いかなと。

実際にQAのチームはOpenStackの1回のリリース、これはだいたい6ヶ月ごとなんですが、それの中間に集まって話をするMeetupがあるので、そこでまたPTLとしてはチャレンジですね。チャットやIRCで常に話はしているんですが、やっぱりフェイス・トゥ・フェイスで話をしたほうが早いので。例えば文字じゃなくてパパッと図を描いたりすることでお互いの理解を深めたりすることができるのも、会って話をする効果だと思います。英会話も頑張るしかないんですけどね(笑)。

デザインサミットのロゴ

今回は短い時間の中でPTLとしての仕事の概要に触れただけのインタビューだったが、実際にリリースが近くなって様々な発見や問題点も出てくるだろう。OpenStackが掲げるDevとUserの交わりの中でコントリビュータが果たす役割や苦労について、PTLとして日本人が活躍する様を引き続き追いかけて行きたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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