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UML導入に関する考察
第3回:UMLを導入することで期待できる効果
著者:
野村総合研究所 田中 達雄
2005/7/14
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UML導入が目的の成功要因になっている例
紹介した2つの事例以外でも多くの場合が、プロジェクトを成功に導く根本的な要因となっているとは言い難い。また、UMLでなければならなかったかとの問いに対して、必ずしもUMLである必要は無かったとの回答が得られることがある。
それでは、なぜ欧米では90%以上を越える利用率なのだろうか。オブジェクト指向やUMLの事例が広く公開され、成功体験や失敗体験を共有できる環境にあることは普及の意味では効果があるが、UMLでなければならない理由は別にあるはずだ。その要因を以下の導入事例から探ってみる。
H社(企業名未公開)
H社では不足する開発要員の確保や開発コストの抑制を実現するために、自前のオフショア開発拠点を中国(大連)に設立した。ここは日本向けプロジェクト開発に特化した施設と開発要員の拠点であり、現地の開発要員は日本の開発メンバーと協業を可能とするための日本語習得を含んだ日本向け開発ノウハウを蓄積することに努めている。
とは言え、益々グローバル化する開発プロジェクトに対応するためには、日本独自の開発手法のみ対応しているだけでは十分とは言えない。グローバルな開発プロジェクトに対応できる世界共通の開発プロセス、開発方法論、開発ツールを使用することが望ましい。
また日本語を習得しているとは言え、曖昧で冗長な日本語文書では、現地開発要員に正確に仕様を伝達することは難しい。当然、現地開発要員の中には日本語が不得意な者もおり、語学のスキルに差異がある。その差異によって仕様伝達の精度が異なるようでも困る。
そこでH社では日本と中国の双方でオブジェクト指向/UML教育を実施し、開発プロジェクトを成功に導いている。
図1はUMLによる情報伝達を実行に移したときの流れを示したものである。日本側でUMLを使って要求仕様書を作成し、中国側へ情報伝達していることが分かる。中国側でもこのUMLを後工程でもそのまま使用し、日本側とレビューする場合は日本側が作成したUMLをベースに確認し合っている。また、H社では日本語の文章での説明を避け、できる限りUMLで情報伝達できるよう努めている。先にも述べた中国側開発要員の日本語スキルの差異を、モデルの情報量や表現力を高めることで補うことができると言う訳だ。
図1:UMLによる情報伝達
出所)H社の資料より野村総合研究所が作成
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
またH社では、Face to Faceのコミュニケーションの重要性も説いている。確かにUMLによって情報伝達の曖昧さは低減できたが、十分に「理解」させるためにはもう一工夫必要である。H社ではHLD以降で仕様変更がおきないように工夫している。HLD以降に仕様変更が多発すると中国側が日本側に対して不信感を持ち、モチベーションが著しく低下するためである(これは他のオフショア開発事例でもよく聞かれる話である)。
仕様変更があった時の原因としては、本当に仕様が変わる場合と、実際には仕様は変わっていないが中国側が別の解釈をしていた場合が想定される。H社では後者の問題を低減するために、中国側のソフトウェアアーキテクトを日本に呼び、SRC作成を手伝ってもらうようにしている。H社ではSRCとHLDが決まれば以降はうまくいくとの経験則を持っており、SRCとHLDへのつなぎの部分を重要視しているようだ。
H社では
UMLを中国側との情報伝達ツールとすることで、オフショア開発の最大の課題である仕様伝達の問題を低減
し、1年間で中国側への発注工数を倍増することに成功している。また世界共通の開発プロセス、開発方法論、開発ツールを使用することで、日本、中国だけでなく、インドとの共同開発も可能にしている。
これはUML導入が目的の成功要因となった典型的な事例と言えるだろう。
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著者プロフィール
株式会社野村総合研究所 田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。
INDEX
第3回:UMLを導入することで期待できる効果
UML採用の目的
UML導入が目的の成功要因になっている例
古河電気工業株式会社
組み込みソフトウェア開発からの視点