国内IT市場の不連続性と、SIの終焉の予感

2012年4月16日(月)
栗原 傑享(くりはらまさたか)

記憶に新しいリーマンショックではあるが、もう既に3年以上前、2008年秋の事になる。私は当時(引き続き今も)金融機関向けSIに関わっていたため、ほんの数日ぐらいの間にバタバタと投資案件が凍結されてくるのを経験した。企業の多くは必要最小限の投資についても抑え、ごまかしの利くところはとにかく計画を先送りにして短期計数の改善を図った。以来、昨年に至っても大きく景況感は回復する事無く、企業はちょうど当時にリプレースメント対象であったような古めのシステムも延長運用をし続けている。社内を見わたしてみると、Javaで作りTomcatで動くイントラシステムや、Visual BasicとOracleで作ったクライアントサーバーが身の回りに残ってしまっていないだろうか?ましてCOBOLなダム端は?現在の企業内ITには、朽ちてはいないが宮大工が死に絶えた古寺社が多数存在するようである。Lotus Notesは最も顕著にこの問題を抱えている。Notesは既に20年の歴史を持ち、国内だけでなく世界的に広く、それも大規模企業を中心に普及している。しかも比較単純なグループウェア機能だけでなく、企業固有のロジックを多数含んだ業務システムを多数ホスティングしているケースがある。そして企業で現役のNotesのほとんどは既に本体ライセンスのサポートが終了してしまっているのだ。メーカーの情報支援もままならない現状はしっかりと直視しなければならない。

この3年間の投資凍結によって、ITは不連続となり、市場には潜在的なシステムリプレイス需要が高まっている。同時にそのリプレイスは揃ってプロジェクトリスクを抱え込んだ。何よりそもそも先行きの不透明感が解消されていないために、企業は今までのようには金が使えない。本当に必要な投資とそうでないものを分別するのも慎重となり、今やらねばならない積極的な理由が無い限りにはスタートする勇気が持てないのだ。

SaaS、デモ、Push型提案を求める顧客心理、そしてSIの終焉

前述のとおり顧客には投資箇所と量を適切に決定する気力が失われている。既にリプレイスが困難になってしまったシステム群を前に、漠然とシステム担当者は悩みを抱える状態となった。時にはトップダウンな指示から、時には従業員からのプレッシャーから、旧来保持し続けるシステムの改善を求められて担当者はパニック状態になっている。

パニック故に顧客が自らの足元を見直すまでも無く導入検討を行いやすいGoogle AppsやSalesforce.comといった有力なSaaSは、取りあえず混乱解決のために突端(とったん)に手をつけてみる手段となっているのかもしれない。私どもサイオステクノロジーでもGoogle Appsの引き合いが増え、導入企業も小中規模の企業のみならず大企業にまで急拡大している。一方で、いわゆる具体的な製品の提案ではなく、顧客のニーズに柔軟に対応するようなアプリケーション受託開発については、様子が異なってきた。すなわち冒頭に掲げたように、顧客は(Google Appsに関わろうが関わるまいが)スクラッチに業務システムを開発したいという要望は少数となり、すぐ使えるサービスを求めてくるようになっている。おそらく、システム投資を行わなければならない何らかの課題は明らかながら、その内側の要件については整理されておらず、手をつけにくくなっているのだろう。顧客側にて明瞭な要件をイメージするのに一番効果的なのは、動くモノを見る事だ。既に動いているのであれば「動かないコンピューター」ではなく、自らの漠然とした要件も動く様子を観察しながら自問して整理する事ができる。何よりシステムの専門家ではない経営トップであっても、目の前で動いているのであるから、採用するかしないかはトップ自らで判断ができるようになる。

タイトルに掲げた「SIの終焉」は近い。これまで考察してきた顧客内の混乱から、少なくともこれまでの契約締結後に要件定義を始めるような受託開発は市場から姿を消した。顧客が導入の意思決定を行う前にシステムは動く状態で用意され、プリセールスエンジニアがデモを行う事によって、初めて商談が進められるようになっている。つまりはパッケージやサービスを買う事を中心に考えるという事であり、できる限り初期コストを抑える傾向はサービスであるために結果として実現される。

企業はそれぞれ戦略を持って競合他社との差別化を行おうとしている。そのためITにおいても企業の業務コアとして競争力の源泉となるところについては投資を行わなければならない。そのための開発ニーズは市場に残り続けるだろう。ただしそういった案件は企業毎および業種毎に異なる要件に立ち入っていかなければならない。開発対象システムについての固有ノウハウを積み重ねていけるだろうが、多分に業務知識が必要であり、それは水平に多数展開できる性質の知恵ではなくなってしまう。繰り返すがシステム開発のニーズは決して無くならない。しかし市場は極小かつ細分化されるためにやはりSIの終焉は始まってしまっているのだ。IT人材の流動化も現在より高まって、中長期ではシステム開発は安価なSESもしくはインハウス化していく流れになるだろう。

著者
栗原 傑享(くりはらまさたか)
サイオステクノロジー株式会社

1972年札幌生まれ。サイオステクノロジー(株)執行役員Googleビジネス統括、(株)グルージェント代表取締役社長、特定非営利活動法人Seasarファウンデーション理事を兼任。OSS開発者としてもしばらく前は活動していて、2005年はJavaによるWEBテンプレートエンジン「Mayaa」をIPA未踏ソフトウェア創造事業に採択いただいて開発しました。近年ではサイオスの事業推進責任者としてクラウドビジネス推進を担当して専らGoogle Appsのライセンス販売に従事し、グルージェント(サイオス子会社)にて周辺ソリューション・サービス開発の指揮をとっています。

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