[入門編] Ubuntu Serverの基礎(後編)

2013年12月13日(金)
古賀 政純

既存のホスティング基盤やゲームサーバー基盤、Hadoop基盤等において、XeonやOpteronなどのサーバー向けプロセッサを搭載した1Uや2Uのサーバーを利用しながら、カートリッジ型の超省電力サーバーに切り替えに当たり、既存資産の移行や性能面でハードルが高いと感じているユーザーには、HP ProLiant SL2500 Gen8とUbuntu Serverの組み合わせがお勧めです。

SL2500 Gen8は2Uに4台のサーバーが稼働できるため、1Uのサーバーに比べて集約度が2倍で、電源やファンの個数を減らしつつも冗長構成による耐障害性を確保できるというメリットがあります。データセンターで大量のサーバーを並べるホスティングやオンラインゲームサーバーに適しているといえるでしょう。

仮想化技術によって集約度を高めるには、Ubuntu Serverが持つKVMやLXCの機能を利用することになります。本格的な大規模エンタープライズを対象とした仮想化基盤向けのブレードサーバーのような、ハードウェアレベルでの統合遠隔管理モジュールやバーチャルコネクトと呼ばれるファイバーチャネル、またNICの分割、帯域制限機能等のいわゆる「ハードウェアレベルでの仮想化の機能」はSL2500 Gen8にありません。

大規模エンタープライズ用途レベルの非常に柔軟で高機能な仮想化要件までは求めないが、単純なLANセグメントで固定し、Webフロントエンド層に近いパブリック・クラウド基盤でゲストOSを大量に稼働させればよいというホスティング基盤に向いています。

以下にMoonshotとSL2500の特徴とUbuntu Serverの関係から導き出される利用シーンを比較表としてまとめておきます。

図2:物理ホスティングには仮想化ソフトウェアが不要なHP Moonshotが適している。Hadoop利用ではCPU性能と大容量メモリを検討する(クリックで拡大)

Ubuntu Serverのバージョンとサポート・マトリクス

Ubuntu Serverのバージョンには、LTS(Long-Term Support)が付くものと付かないものに大別できます。LTSは、バクフィックス、セキュリティアップデートの提供が5年と定められています。LTSが出るのは2年毎で、2013年11月下旬現在は、Ubuntu Server 12.04.3 LTSがLTS版の最新バージョンとなります。次のLTSは、2014年4月にリリース予定のUbuntu Server 14.04 LTSになります。バージョン番号の12.04は2012年4月リリースを意味しているので、直感的に分かりやすいバージョン番号の付け方になっている点が特徴的です。

一方、LTS版ではないものは、一般的に「通常版」と呼ばれます。LTSが付かない通常版はセキュリティアップデートやバクフィックスのコード提供が18カ月しかないため、商用利用には向いていません。あくまで最新のOSSのコードを試すような実験工房としての利用を想定しており、長期にわたるサポートが必要な商用システムでの利用の場合は、LTSの採用を強く推奨します。ハードウェアベンダーのUbuntu Serverのサポートも基本的にはLTSのみが保守サポート対象になります。米国HPのUbuntu Serverに関するサポート・マトリクスのWebサイトを見ると、LTSと通常版で対応状況が異なることが分かります。

図3:LTS版と通常版でのOS自体の違いだけでなく、ベンダーの対応の違いも理解する(クリックで拡大)

Ubuntu Serverに関するサポート・マトリクスが掲載されているURL:
> http://h18004.www1.hp.com/products/servers/linux/hplinuxcert-canonical.html#matrix.html

LTS版は、✔マークが付いており、HPによるOEM版Ubuntu Serverの保守サポートが提供され、かつOSベンダーの認定を受けていることが分かりますが、非LTS版(通常版)は、「T」のマークが付いています。これは、HPでテストした限りインストールに成功したというレベルであり、認定されているわけではないことが分かります。このように、長期にわたり本番システムで利用し、かつハードウェアベンダーのUbuntu Serverの保守サポートが必要な場合に、LTS版の利用を推奨していることがサポート・マトリクスから理解できます。

12.04 LTSが2012年4月に出た後、次のLTSリリースまでの間に、12.04.1、12.04.2、12.04.3という12.04のバージョン番号にさらに連番が付いたバージョンのUbuntu Serverがリリースされます。これをポイントリリースといいます。ポイントリリースには、セキュリティアップデート、パッチ適用、バグフィックスや各種バックポート等が施されていますが、ポイントリリースのバージョンによって、新しいハードウェアの動作認定に大きく影響しますので、注意が必要です。

例えば、高さ2Uのシャーシ筺体で4台のサーバーが稼働できるHP ProLiant SL2500 Gen8のシャーシ内に搭載されるサーバーノードは、SL210t Gen8という機種ですが、この機種は、ポイントリリースのUbuntu 12.04.3 LTSで動作認定されています。したがって、Ubuntu 12.04.3 LTSよりも前のバージョンのポイントリリースをインストールし、たとえ見かけ上うまく動作できたとしても、動作認定されたポイントリリースではないため、Ubuntu Serverに関するベンダーの保守サポートが受けられません。

ポイントリリースはバグフィックスやセキュリティパッチという側面が一般的に強調されますが、実は新しいチップセットやRAIDコントローラー、NICに対応したドライバーの提供等も含まれています。新しいハードウェアがリリースされた場合には、Ubuntu Serverのポイントリリースまでチェックするようにしてください。

図4:LTS版のポイントリリースの対応状況をチェックする。機種によってサポートされるポイントリリースのバージョンが違うことに注意(クリックで拡大)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 プリセールス統括本部 ソリューションセンター OSS・Linux担当 シニアITスペシャリスト

兵庫県伊丹市出身。1996年頃からオープンソースに携わる。2000年よりUNIXサーバーのSE及びスーパーコンピューターの並列計算プログラミング講師を担当。科学技術計算サーバーのSI経験も持つ。2005年、大手製造業向けLinuxサーバー提案で日本HP社長賞受賞。2006年、米国HPからLinux技術の伝道師に与えられる「OpenSource and Linux Ambassador Hall of Fame」を2年連続受賞。日本HPプリセールスMVPを4度受賞。現在は、Linux、FreeBSD、Hadoop等のOSSを駆使したスケールアウト型サーバー基盤のプリセールスSE、技術検証、技術文書執筆を担当。日本HPのオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストとして講演活動も行っている。Red Hat Certified Engineer、Red Hat Certified Virtualization Administrator、Novell Certified Linux Professional、EXIN Cloud Computing Foundation Certificate、HP Accredited Systems Engineer Cloud Architect、Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack、Cloudera Certified Administrator for Apache Hadoop認定技術者。HP公式ブログ執筆者。趣味はレーシングカートとビリヤード

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