最強ロボットを作れ!−FLL挑戦記
第1回:みんなでロボットを作ろう!
著者:オムニチュア 酒井 秀樹、ファーストキャリア 岩田 徹
公開日:2008/04/11(金)
最終的に成功した戦略:最短距離を着実に進め
上述のような試行錯誤の後に最終的にチームがたどり着いたのが、最も少ないアクションで分子モーターに到着することが可能な戦略4だ。図3の(1)に戦略4の動作を示す。この戦略は非常にシンプルだ。ロボットに取り付けるアタッチメントの数が少なく、ルートもシンプルなために大幅に時間短縮を図ることができ、有望と考えられた。
しかし、この戦略を完璧にするまでには、さらに試行錯誤を繰り返すこととなった。まず、「一定の距離を作ること」であるが、回転センサを用いても電圧によりロボットのスピードに差が出てしまうため慣性が働き、同じ環境下で行っても一定にすることが難しかった。この部分については連載「LEGOから学ぶ組み込みシステム開発のキホン」の「第4回:リソース制約対応とプログラム開発管理」にて詳細を記載しているので、参照してほしい。
次に「一定の角度を作ること」は、当初光センサを用いてミッションマットに描かれている黒い線を利用して、ラインレースにより角度を作り出していた。しかし、ポイントAに至るまでの一定の距離を作り出すことができなかったため、曲がり始めのポイントがずれてしまい、そのためせっかくライントレースにより一定の角度を作ろうとしてもぶれてしまい、分子モーターにたどり着くロボットの位置がまちまちになってしまった。
ついにロボットが完成!
そこで、チームが取った対策は、以下の2つである。まず、第一に距離を一定にするためのアルゴリズムの開発だ。具体的には、角度センサとタイマを用いて、停止位置でちょうど速さが0になるように制御することである。こうすることにより、電池電圧に関係なく駆動距離を一定に保つことができ、次の角度を作るアクションに移るポイントを固定化することに成功した。
2つ目は曲がる角度を一定にするためのメカとして「舵取り君」と呼ばれる仕組みを開発した。「舵取り君」は、アタッチメントに動力を伝えるためにベースロボットに備え付けられたモーターの力を利用して、地面に向けてアームを横に動かし、ロボット本体の向きを一定に変えることができる仕組みだ。詳細は、連載「LEGOから学ぶ組み込みシステム開発のキホン」の「第3回:ハードウェアとソフトウェアの協調設計 」で紹介している。
戦略4の仕組みは日本大会までに作ったが、ミッションをクリアする精度が非常に高いので、結局微調整をしながら世界大会まで使った。これらの仕組みはすべて中学三年生のメンバが考え、そして実現させた。後でどうやって仕組みを実現したかを聞いて驚いたことを覚えている。
今回は、分子モーターおよび自己組織化ミッションの対応について、チームがどのように考え、実行し、クリアしたのかを順を追って説明した。今回、チームはこの2つのミッションの対応にかなり手を焼いた。その理由は、分子モーターの設置位置がフィールド・マット上の中途半端な位置にあること、かつ分子を入れる黒い枠が3cm四方と小さく、高い精度が要求されたためだ。
チームは前年の大会で、マット上での移動精度を上げるために、壁を利用する補正方法、光センサによる補正方法を経験していたが、今回どちらの補正方法も利用することができなかった。そのため、完成度の高い戦略とそれを実現するロボットを開発するまでにトータルで5ヶ月もの期間を要した。しかし、最終的に作り上げたロボットの完成度は高く、ほぼ100%の確率でミッションをクリアすることができたのである。
次回は、2番目に難易度の高かったスペースエレベーターのミッション攻略戦略について紹介する。