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【伝わる!モデリング】モデリングの新潮流

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第1回:最新モデリング動向

著者:株式会社豆蔵 羽生田 栄一

公開日:2008/04/07(月)

ポストUMLとしてのモデルベース・エンジニアリング

ではモデリングを経営・組織に活かす方向のビジネスモデリングにおける動きと、製造業・モノづくりに活かす方向のシステムエンジニアリングにおける動きを見てみましょう。

じわじわとではありますが、日本でもビジネスの見える化をキーワードに、ビジネスモデリングおよびその1つの側面であるビジネスプロセスモデリングの必要性が経営層から認識され始めています。

ビジネスプロセスモデリングとは、業務=ビジネスプロセスのモデル化というだけでなく、経営目標に合わせて事業の全体像を見直し、個別のプロセスを企業全体として統合管理していこうというBPM(Business Process Management)です。

そのような活動を支えるのが、企業のビジネスや事業活動の見える化のためのモデルです。ビジネス上の目標や重要概念、リソースとそれらの関連をモデル化するには、マインドマップなどのグラフやオブジェクト指向の概念モデルが有効で、ビジネスの意味的・概念的な側面をバランスコアカードやUMLのクラス図で表現できます。

一方、ビジネスの振る舞い・プロセス的な側面はUMLのアクティビティ図で表わすことも可能ですが、ワークフローのモデリングの伝統と合わなかったり、アクティビティ図自体の表現力に問題があり、BPMN(Business Process Modeling Notation)が登場しました。

最新版はBPMN 1.1で、2008年1月にOMGから公開されています。この版でイベントおよびサブプロセスの見直し、また他のモデル要素の定義の整理が行われ、UMLのアクティビティ図やIDEFの考え方も取り入れられました。ビジネスプロセスを表現するダイアグラムとしてはほぼ安定したものとなったといえるでしょう。

今後は、OMGが提案するBPDM(Business Process Definition Meta-model)との統合、組織内のフロー制御であるオーケストレーションに対して組織をまたがるフロー制御であるコリオグラフィーのモデル表現力の強化が計画されており、それらを取り込んで2009年にはBPMN 2.0の公開が予定されています。

また、ビジネスプロセスモデル自身は、それを実行する情報システムとは独立して定義できる必要がありますが、実際に実行するプラットフォームをSOAにすることによって、「ビジネス→プロセス→サービス→コンポーネント」といった形でトレーサビリティを確保することが容易になります。これによりマーケットの変化や経営ニーズに応じて、業務プロセスとITを相互に柔軟に進化させていく可能性が出てきます。

ビジネスプロセスモデリングの実現のため、IBMのCBM(Component Business Modeling)を始め、様々な組織がSOAを意識したビジネスモデリングの方法論化を研究しています。BPMNを用いたモデリングの世界的な適用状況に関しては、Business Process Trendsに掲載された調査報告「BPMN Modeling ? Who, Where, How and Why」が参考になります。

図2:BPMNとSOA
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

SysMLとMARTE

OMGに絡んだもう1つの大きな動きがSysMLおよびMARTEです。どちらもビジネス系というよりは製造業において、プラントや装置、自動車や情報家電などの製品を複合的なシステムと捉えてモデリングする際のモデリング標準として利用されるようになってきました。

SysMLは、ソフトウェアだけでなく、構成ハードウェア(デバイスや動作機構などのメカと電子回路などのエレキ)も含めてトータルで対象システムをモデル化したいというシステムエンジニアリング的なニーズに応える形で登場した汎用モデリング言語です。

UML 2.0をベースにSysML固有の拡張を行っています。要求や制約を明示的に表現できるように要求図・パラメトリック図が追加され、その他のUMLダイアグラムも記法やセマンティクスが強化されています。

MARTEは、組み込みソフトウェアのためのモデリング手法を提供する規格で、時間制約やスケジュール可能性などをきちんと表現したり解析したりするのに有効な、リアルタイム組み込みシステム向けドメイン特化モデリング言語です。UML 2.0の拡張プロファイルとして組み込みリアルタイム領域のメタモデルが定義されています。結果としてUML以外の新たなダイアグラムが追加されることはなく、ステレオタイプや制約の追加で、時間、タスク、スケジュールの概念に対応しています。

今後、製造業を中心にしてSysMLでシステム全体をモデル化し、そのソフトウェア部分の設計をMARTEを使って行い、モデル上で時間制約のシミュレーションに基づく設計検証を実施する、といった使われた方が増えていくことでしょう。また、SysML自体は汎用のシステムモデリング言語として定義されていますので、製造業に限らず、場合によってはビジネスモデリングへの応用も考えられます。

ただし、現状のSysMLはかなり巨大で複雑な仕様となっているため、ビジネスモデリングに応用するためには経営のステークホルダーに受け入れられる形に整理・簡素化する必要があるでしょう。SysMLについては第2回(4/14公開)で、MARTEについては第3回(4/21公開)で独立したテーマとして取り上げていきます。 次のページ




株式会社豆蔵  羽生田 栄一
著者プロフィール
株式会社豆蔵 羽生田 栄一
株式会社豆蔵取締役、プロフェッショナル・フェロー。技術士(情報工学部門)。
オブジェクト指向やソフトウェア工学の実践適用に関するコンサルティング、セミナー講師に従事し、後進の育成にあたる。アジャイルプロセス協議会会長、IPA/SEC設計技術部会委員、情報処理学会ソフトウェア工学研究会主査、IPA ITアーキテクト・コミュニティ委員などを務める。
神社と富士塚・古書店などを巡る街歩きが趣味。
http://www.mamezou.com/


INDEX
第1回:最新モデリング動向
  仮想化としてのモデリング
ポストUMLとしてのモデルベース・エンジニアリング
  その他の動き(設計モデリングと形式手法)