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ITコスト評価インデックスとITコストベンチマーキング
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第2回:情報システムのアウトソーシング上の課題
著者:日本情報システム・ユーザー協会   2006/4/27
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情報システムのアウトソーシング上の課題

   多くの日本の大手企業が間接部門である情報システム部門の子会社化を進めながら、IT戦略を生かした経営戦略を行う風習が一般化している。しかし、企業経営/事業戦略上の基幹である「ビジネスの仕組み」である業務システムの情報システム化を進める組織機能を、本社機能から分離することについては、欧米ユーザ企業は「納得できない」と訪問時に語っていた。

   日本の各企業が情報システム部門を子会社化する目的は次のようなものであるが、基本的には情報システム部門のコスト管理の色彩が強く反映された結果であった。

  1. 企業情報システム構築上の専門集団の強化
  2. 企業情報システムのコスト削減
  3. 恒常的なオペレーション業務のアウトソーシング体制

表2:日本の各企業が情報システム部門を子会社化する目的

   情報システム部門が子会社化されてから数十年経過した現在、情報システム技術のコモディティ化とともにITインフラのアウトソーシング化がシステムベンダーにより積極的に行われている状態から見て、各社は新しい企業情報システムの組織機能(含む情報システム子会社とアウトソーシング体制)を再構築すべき時に来ている。

   日本の情報システムのフルアウトソーシングがはじまり10年が経過し、ユーザ企業として評価を行うことができる時に来ている。情報システムのフルアウトソーシング上で発生した問題には次のものがある。

アウトソーシングは情報システムの維持運用サービスである
問題:ITの技術進化に合わせて情報システム自体の機能改善を行う契約ではないため、別途、情報システム自体の更新/強化への投資が必要

アウトソーシングされたアプリケーション、ITインフラは保守サービスの範囲内でしか改善されない
問題:アウトソーシングされたアプリケーション、ITインフラは年々陳腐化が進み、契約終了時点では、自社の資産が消滅する(契約により、アプリケーションソフトウェアは自社で使用できるが、アウトソーシング期間中にカスタマイズした部分の所有権は共有で対応することになる)

業務システムの情報システム化の設計能力が喪失してしまう
問題:5年〜10年近くのアウトソーシング契約期間内に、自社の業務システムの情報システム化を進める人材が枯渇し、スキルが喪失される

アウトソーシングした業務との連携での新規事業/新規業務の開発が錯綜する
問題:既存業務処理との連携での新規業務や新規事業の企画、設計を行う要員の確保、特に既存業務との連携部分の設計要員確保が困難である。新規事業/新規業務を主体としてアウトソーシングされた業務と、既存業務と連携させ構築するプロジェクト管理が錯綜する

10%近くのコストダウンでのアウトソーシングは契約期間を通じてのコストダウンは効果的とは考えにくい
問題:毎年減価償却が進むため、システムの増強がなければ毎年10%ずつのコストダウンは可能である。事業拡大に伴う業務量の拡大と新しい機器拡大を吸収して10%コストダウンを何ヵ年追求できるかを考える必要がある。特に、ITインフラの性能価格比の毎年の向上を折り込んで、ITインフラコストが性能価格比以上のコストダウンを生む契約が望まれる

アウトソーシング契約は、ビジネス対象であり、ユーザ企業に対するボランティア活動ではない
問題:ユーザ企業の立場で考えてはくれるが、考えるだけではなく行動を伴わせるためには、追加費用を支払う必要がある

アウトソーシング契約金額の内訳非公開
問題:アウトソーシングを行った企業での最大の問題は、アウトソーシング契約金額の内訳が公開されるケースが少なく、ユーザ企業が企業全体のITコスト効果、IT健全性、新しい情報システム機能投資評価などを行う場合のコスト評価ができないことである


表4:情報システムのフルアウトソーシング上で発生した問題

   しかし、グローバル市場での競争に勝つために、ITコストダウンの追求は、製造業の製造原価のコストダウンと同様に重要性を増すことになる。ビジネスに直結しない恒常業務/定例業務のアウトソーシングによるコストダウンを追求し、人件費の削減、設備投資/償却負担の削減を追求する必要がある。

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日本情報システム・ユーザー協会
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ユーザーの立場からの産業情報化の推進を目的とし、大手ユーザー企業を中心に、約250社の会員を擁し、経営とITに関する様々なテーマや、立場に応じた40以上の委員会、研究会、研究プロジェクトを実施し、毎年、各種調査・研究報告書の刊行や、提言を行っている。1962年、日本データ・プロセシング協会として創立、1992年社団法人日本情報システム・ユーザー協会として、全面的に拡充改組。
http://www.juas.or.jp/

INDEX
第2回:情報システムのアウトソーシング上の課題
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情報システムのアウトソーシング上の課題
  企業経営とITコスト