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情報化による業務システム改善
情報化による業務システム改善

第3回:規定・制度、組織・機構を改革する
著者:みずほ情報総研   片田 保   2006/6/5
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決裁権限

   意外と曖昧に運用しているのが決裁権限である。特に決定関与では、とりあえず関係しそうな組織にも意思決定に加わってもらうことで、自らの決裁による判断と責任の「保険」をかける。ハンコさえ捺されていれば、後で知らなかったとはいえない。

   しかも、決定関与者のリストから選ぶだけで簡単に決裁ルートに乗せることができる。先述のような決定関与者の乱発にITが拍車をかけることになりかねない。このような事態にならないように、あらかじめ決定関与者と事案との関係を規定で明確にするべきである(なお、決裁権限の分権、現場への移譲については、組織・機構の運営に関わることなので後述する)。


文書取扱規定

   文書管理・決裁の効率性を高めるために、情報システムを導入するケースは多い。しかし文書の主を「紙」として取り扱ってきた時代の規定では、「電子データ」が主となったときに不具合を生じることがある。2005年4月1日に施行された「e文書法」により、民間企業も電子的な文書保存・管理ができる幅が広がってきた。電子的な取扱いそのものを認めない規定は改める必要がある。

   一方で、中央府省・都道府県など役所では、これまで「紙」を前提とした文書主義が原則となって諸規定が整備されてきた。例えば起案・決裁ルートでは、同時併行に一斉配信する「同報配信」は想定されておらず、決裁が電子化されても、相変わらず縦ライン順列で処理しているところも少なくない。

   さらに文書の回付では、新聞や雑誌などの切り抜き記事の回覧、庶務的な申請書類の決裁、重要事案の起案・決裁などが1つの決裁ルートに混在し、重要事案は紛失を避けるために持ち回るという事態が生じている。持ち回りの際に根回しもできるので一石二鳥という見方もできるが、重要書類を紛失しかねない劣悪な状態なので、取扱文書に応じた決裁ルートを定めるべきだろう。

   情報システムの導入にあたっては、決裁ルート、取扱文書、保存・管理ルールが曖昧になっているような事態はぜひとも避けたい。


事務処理規定

   これまでの事務量と処理方法を前提として、それにあわせた人員配置・配属を行ってきたため、人が介在して処理することにとらわれがちである。特に、書類のチェックや取りまとめでは、情報システムを導入した後もパソコンの画面上で人が目視確認をするなど、不必要な事務作業が残っているケースも見られる。

   そして、BPRを実施するにあたって障害となるのが、組織ごとに振り分けられた事務処理の「細かさ」である。ここでも、既存の組織を前提とした個々の事務作業を残そうとする力が働き、時には組織防衛のために情報システム導入時のBPRを阻む。

   本来は、組織のために仕事があるのではなく、仕事をするために組織はあるはずだ。新しい業務プロセスに切り換えるには、個々の業務の細部にとらわれすぎず、組織を超えて大くくりで鳥瞰して規定を見直すことが重要で、必要に応じて既存組織は人員の再配置を含め、業務に合わせた整理・統合が求められる。


情報管理規定

   情報システムが経営に深く関わるようになり、CIO(Chief Information Officer:情報管理責任者)を任命して、セキュリティポリシーなどの規定類を整備してきた。しかし昨今では、情報漏洩などの事件が頻発したため、電子データで処理される各種情報の管理規定が改めて見直されつつある。

   最近では、業務プロセスにおける各種リスクを可視化して対策を規定したり、重大事故・事件に関わった社員(職員)の罰則規定を重くしたり、トラブルを未然に防ぐための規定として、より重要な位置づけを担っている。そもそも情報管理規定が曖昧であったり、未整備であったりする場合には、BPRの実践にあわせてこれを明確に規定することが必要である。


人事管理規定

   BPRの実施にあわせて、社員(職員)の弾力的な就労が求められることがある。例えば、これまで3人交代で運用されてきた業務を集約することによって、2人交代で処理する場合、それに見合った労務管理が必要になる。さらに、自宅や出張先から遠隔で処理が可能になると、在宅勤務や時間外就労などの規定も見直さなければならないだろう。

   また、一般的にBPRは担当部課が中心となって推進しているものの、それ以外の部課にはあまり拡がっていかないという問題を抱えている。社員(職員)が一丸となってBPRに取り組むには、人事評価などにおいて、BPRの率先実施に対して積極的にインセンティブを付与するといった規定の見直しも必要である。


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みずほ情報総研 片田 保
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社  情報・コミュニケーション部
公共経営室長   片田 保

1991年、早稲田大学教育学部卒業、富士総合研究所(現みずほ情報総研)入社、2004年から現職。専門は、ITを活用した行政経営、地域経営。行政の経営改革に関するコンサルティング、自治体の政策アドバイザーなどの業務に携わる。世田谷区行政評価専門委員を務めるほか、大学・大学院非常勤講師、自治体セミナー講師、論文執筆多数。

INDEX
第3回:規定・制度、組織・機構を改革する
  BPRに「魂」を入れる
決裁権限
  組織・機構の改革