EA(Enterprise Architecture)に関する代表的な文献では、アーキテクチャを「重要と考えられる対象(システムあるいはエンタープライズ)、その構成要素、そして目的を達成するためにそれらがどのように関連しているかについての構造に関わるもの(注6)」、あるいは「ビジネスの全体像を描くための青写真(注7)」と定義している。
EAが様々な利害関係者のシステムに対するイメージの整合をはかることを目的としていることを考え合わせると、Budgenによるソフトウェアアーキテクチャの概念に見られるように、「設計の原理」がEAにおいてももっとも重要なものであると考えてよいだろう。
O'Rourkeたちは、EAの考え方が情報システムに関わるシステムについてのものだけでなく、人工物全体についても拡張して考えられるとしている(O'Rourke etal., 2003)。これに従えば、アーキテクチャは広義においては「人工システムにおける構成要素、構成要素間の相互関連とそのシステムの進化、発展を統治する設計原理からなるもの」と捉えることができよう。
※注6:
Jaap Schekkerman, How to survive in the jungle of Enterprise Architecture Frameworks, Trafford, 2003.
※注7:
C.O’Rourke, N.Fishman and W.Selkow, Enterprise Architecture, Thomson, 2003.
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EAの考え方のベースとなっているものは、J.A.Zachmanによる情報システムアーキテクチャの提案であるといわれている(注8)。Zachmanは1987年に発表した論文で、5つの観点(view)による縦軸と3つの記述(description)による横軸からなる2次元のフレームワークにより、情報システムアーキテクチャを捉えることを提案した。ここでの5つの観点とは「ballpark」「owner」「designer」「builder」「out-of-context」である。
これら5つの観点は一般的(generic)なものであり、建造物や航空機などの複雑な人工物を捉えることができる枠組みであるから、人工物の1つである情報システムもこの枠組みで捉えられるというのが彼の主張であった。また3つの記述とは、「データ」「機能」「ネットワーク」を指しているが、これらも「What」「How」「Where」という一般的な概念に対応するものである。
このようにZachmanは一般の人工物について適用可能な「様々なviewと異なるdescriptionを組み合わせることによって対象を明らかにする」というアプローチを情報システムに対して適用した。
その後Zachmanは1992年に発表したSowaとの共著論文で、表1に示すように縦軸を「planner」「owner」「designer」「builder」「subcontractor」の5つの観点(perspective)とし、横軸に「people(who)」「time(when)」「motivation(why)」の3つを加えて5W1Hに対応した6つの側面(aspects)を持つものに拡張した(注9)。これが、現在のEAにおけるフレームワークの基礎となっている。
表1:Zachmanの情報システムアーキテクチャ (画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
※注8:
J.A.Zachman, "A framework for information systems architecture," IBM Systems Journal, Vol.26, No.3, 454-470,1987.
※注9:
J.F.Sowa and J.A.Zachman, "Extending and formalizing the framework for information systems architecture," IBM Systems Journal, Vol.31, No.3, 590-616,1992.
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