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ここが変だよ!日本のIT
第1回:ものづくり現場の知恵を活かし、ITプロジェクトを改革せよ
著者:
アプリソ・ジャパン ジェームス・モック
2006/9/29
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要件が決まらないのに見積りを強要するのは疑問
ただし、これらは日本的な思想に基づいているとはいえ、日本の企業文化になかなか適用されにくいようだ。
たとえば、筆者が知るあるメーカの部品集中購買ASPプロジェクトでは、次のようなことがあった。当時として、新しいビジネスモデルであり、プロジェクトの進行中に要件が変更しやすかった。つまり、「アジャイル」開発方法が適用できる典型的なプロジェクトだったわけだ。
だが、担当ベンダのプロジェクトマネージャがどれほど「アジャイル」を薦めても、上司には受入れられなかった。理由はビジネス要件が固まっていないにもかかわらず、発注するユーザ企業側が見積もりを強要したきたためだ。ベンダはユーザ企業の曖昧な要求を基に見積もりを迫られたのだ。
こうした状況では、ベンダはウォーターフォール型の開発を採用するケースが多くなる。要件から予想される機能を基にすれば、作業の工数が予測しやすく、見積もりが提出しやすいからだ。また、ユーザ企業にとっても、計画を理解しやすい。そのため、その形態での見積もりが定着している。
だがそれでは、要件の変化に伴って結果的に何度も全般的に計画し直し、幾度も交渉せざる得ないといった「ムダ」な作業が発生してしまう。
このように、せっかく変化に効率的に対応できる開発方法があっても、実際に採用できない場合が多いのだ。
また、こうした過剰な擦り合わせや稟議プロセスは、特に不確実性が高いIT業界においては、かなりのコストを要する。筆者はこれによって、日本の競争力が損なわれていると実感している。
さらに、残念ながらITの仕事の大半は、トヨタ生産方式では「ムダ」か「付加価値のない作業」の定義に入ってしまう。トヨタ生産方式では、「ムダ」以外の作業として、「正味作業」と「付加価値のない作業」とに分類している(図3)。
図3:トヨタ方式における作業の分類
参考:大野耐一著「トヨタ生産方式」
前述のような「計画作業」も7つのムダの中の1つに位置付けられる。またそれ以外にも、「情報を探す」「移動」「待ち時間」などは、企業にとって付加価値はないが、条件の中でこなさなければならない作業とされている。
今後の日本のIT業界では、ベンダとユーザが共同で計画の限界に真正面に対応する体制が必要だと考える。具体的には、本文のEVMやT&M、アジャイル法、リーン・プロジェクト・マネジメントのような手法を取り込み、ITプロジェクトの「ムダ」を排除していくわけだ。
次回は、IT業界の人材問題について考えてみたい。
参考文献
「トヨタ生産方式」:大野耐一著、1987年、ダイヤモンド社刊
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著者プロフィール
アプリソ・ジャパン株式会社 ジェームス・モック
香港生まれ、英国ブリストル大学機械工学卒、米国スタンフォード大学工学修士、テンプル大学MBA修了。1991年に来日。東京大学生産技術研究所でシュミレーション研究と日本企業で鉄鋼成形機械のCAD・CAM設計・開発に携わる。2001年に米アプリソの日本支社を立上げ、テクニカルディレクターとしてMES・POP・WMSなどのソリューションをスペインや中国、韓国、日本で導入するプロジェクトを取りまとめる。現場ユーザや企業の情報システム部門、導入コンサルタント、ソフトベンダの立場から純日本企業と外資系企業の日本国内外ITプロジェクトを幅広く経験している。
INDEX
第1回:ものづくり現場の知恵を活かし、ITプロジェクトを改革せよ
はじめに
計画の正確性を求めるより変化に柔軟かつ迅速に対応
要件が決まらないのに見積りを強要するのは疑問