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ここが変だよ!日本のIT
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第3回:ITの効果を享受するためにSI・ベンダーの使い方を変えろ!
著者:アプリソ・ジャパン  ジェームス・モック   2006/11/14
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誘導型サービスを積極的に利用しよう

   では「厄介型問題」にはどう対処すればよいのだろうか。1つの有効な手として誘導型サービスを利用する方法がある。誘導型サービスとは、文字通りベンダー主導ではない。あくまでユーザが主導の立場をとりながら、そこに外部コンサルなどが参加して、ベンダーが提供するソリューションを利用できるように導いていくサービスのことだ。

   例をあげると、日本版SOX法の対応で企業からどのぐらいリスクを取るべきか、KPIやBSCの実現で業務を見える化した後にどのようなアクションを取るべきか、「要求開発」の手法でIT戦略をどのように具現化するべきかなどだ。いずれも企業が主導して決めなければ、ベンダーのソリューションは特効薬とならないと筆者は考える。ただし、システムの素人が簡単に立案していくことも難しいので、ベンダーの誘導を得ながら企業側がリードしてソニューションを作成する必要があるのだ。

   読者は社内の関係者たちが話し合うプロセスに、なぜ外部コンサルを使わなければならないかと思うかもしれない。だが、外部コンサルを使えば、次のようなメリットを享受できる。
  1. 社内には存在しない知識やエキスパティズを、課題やソリューションの定義プロセスに生かす
  2. 関係者たちの異なった観点を見える化するツールやモデル、方法などを外部から持ち込み、意思決定を加速する
  3. 日本では企業文化もあって、相対する要求があると、対立を避けるために課題を先送りしがちだ。その点、外部コンサルが入れば、課題の緊迫感を醸成しやすく、コンサルのファシリテーションスキルによって、対立するような意見でも交換しやすくなる。日本のプロジェクトでは、ITツールの導入時に分析や構築、テスト、教育作業は外部ベンダーに任せる傾向が強い。そのため、このように自社ユーザ主導というマインドセットを持ちながら、こうした外部の誘導型サービスをうまく利用するケースは少ない

表2:外部コンサルを使うメリット

   筆者は、業務コンサルやRFPの作成、ベンダー選別、要件定義、システムのコンフィギュレーションまで、なるべく自社ユーザが主導・参画しながら、外部誘導型サービスをうまく利用すべきだと考える。その方が、ベンダーに任せっきりにするより、導入後にもうまく運用できる確率が高いからだ。

   そして、外部サービスの予算は限定されているが、社内リソースの利用は会計上反映してないということが、こうしたサービスを利用していない、もう1つの理由となっている。

   筆者が、ある別のプロジェクトで自動車部品会社の要件定義に参画した時のことだ。1ヶ月以内で要件の半分以上を固めた。だが、残った課題が社内で合意できず、1年以上、社内の各関連者が繰り返し検討しても、決められなかった。そして、要件定義の追加予算を確保できなかったため、筆者もプロジェクトから外されることになった。

   後日、その担当事業部長が言った言葉が耳に残っている。「自社内だけではまとめられない要件でも、あなたを入れることができたら、3倍の時間を節約できたかもしれない。でも、内部の人間の時間はタダだから」。このように、部下のサービス残業や意思決定の遅れが原因で発生する、オポチュニティ・コストなど財務会計上では反映してない。その効率化しようともしないケースが少なくない。内部コストがただと思い込んでいる錯覚に騙されると、外部サービスをうまく運用することも難しくなるだろう。

日本と米国のRFPはこんなに違う

   筆者が日本で目にしたRFPの大半は、おおまか過ぎるか、細か過ぎるかの、どちらかという両極端の印象がある。

   おおまかなものの例では、多数の機能項目と、その簡単な説明文章だけを記述したリストだけで、見積もりしてほしいというものもある。業務フローや関連システムのインタフェース数などの情報は一切ない。こういったRFPに対しては、ベンダーは変更や手戻りのリスクを見込んで高く見積もらざるをえない。

   一方、細かいものの例としては、帳票・画面について事細かに記載されているものがあげられる。ただしこの場合、ビジネスロジックや業務プロセスについての説明は不十分というケースが圧倒的に多い。

   本来システムが付加価値を発揮するために、導入の背景やAs-IsとTo-Beの業務フロー、ビジネスロジックなどの情報が、細かい画面詳細よりも遥かに重要だ。なのに、なぜかRFP上は画面の詳細ばかりに重点を置くことが多い。木に細かくこだわって、森の説明がないようなRFPでは、ベンダーからも提案のしようがない。

   米国の場合は、もともと契約社会ということもあって、標準化されているRFPテンプレートから作成されているものが多い。そのため、日本ほどバラツキがないような気がする。そして、細かい画面レイアウトよりも、ビジネスロジックと業務フローを重視する。

   また、要件がはっきりしてない場合には、何回までレビューとサインオフが必要かというような条件も明確に記載している場合もある。
情報システム部門のリソース不足を誘導型サービスで補完する

   以上のように、IT活用の課題は「厄介型問題」に分類されるものだ。ユーザ企業が積極的に責任を持って主導する立場をとらなければ、導入効果を発揮することは難しい。

   とはいえ、情報システム部門のリソースが不足しているのは事実だ。そこで、ユーザ主導で誘導サービスを使って、ベンダーのソリューションを生かすことが必要になる。そうすることで、社内リソースや擦り合せ時間などの全体コストを削減できるだろう。

   そして、そのためにベンダーが構築したシステムに対する対価を支払うだけではなく、ベンダーから提供されたプロセスやサービスなどの価値を認識し、うまく使いこなすことも不可欠になる。そうしなければ、導入したシステムの効果は発揮できないだろう。

   日本のIT業界でも、サービス文化をさらに発展させていかなければ、国の競争力に影響を与える問題になりかねない。

   今回は外部ベンダーの使い方について説明した。次回は、ITを活用するために、ユーザ企業内の体制について解説する。

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アプリソ・ジャパン株式会社 ジェームス・モック
著者プロフィール
アプリソ・ジャパン株式会社   ジェームス・モック
香港生まれ、英国ブリストル大学機械工学卒、米国スタンフォード大学工学修士、テンプル大学MBA修了。1991年に来日。東京大学生産技術研究所でシュミレーション研究と日本企業で鉄鋼成形機械のCAD・CAM設計・開発に携わる。2001年に米アプリソの日本支社を立上げ、テクニカルディレクターとしてMES・POP・WMSなどのソリューションをスペインや中国、韓国、日本で導入するプロジェクトを取りまとめる。現場ユーザや企業の情報システム部門、導入コンサルタント、ソフトベンダの立場から純日本企業と外資系企業の日本国内外ITプロジェクトを幅広く経験している。


INDEX
第3回:ITの効果を享受するためにSI・ベンダーの使い方を変えろ!
  はじめに
  厄介問題の本質
誘導型サービスを積極的に利用しよう