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企業通貨
新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜

第4回:マーケティング手法として注目されている企業通貨の新しい活用方法

著者:野村総合研究所  梶野 真弘   2007/1/30
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新しい優良顧客囲い込みの手法、ステータスマッチング

   再度、「行動ポイントの活用効果」で取り上げたステータスマッチングについて、詳細を述べたい。

   ステータスマッチングでは、優良顧客向けのサービスを提供している企業同士で、「送客」する企業、「送客」を受ける企業、そして、「送客」される顧客の3者間でトリプルWin-Win関係が成立する。

   1つ目のWinは「送客を受ける企業」で、送客元の選び抜かれた優良顧客を自社に紹介してもらえることである。2つ目は「送客された優良顧客」で、送客先企業の優良顧客と同等の特典・ステータスを受けられることである。3つ目は、「送客する企業」で、コストをあまりかけずに送客が行えることで、自社の優良顧客のステータス感をさらに刺激し、高い満足度を与えることができることである。このようなメリットに加えてこの特性を活かし、様々なアライアンス戦略が構築・実施できることもあげられる。


ステータスマッチングの事例〜トヨタ

   ここで、ステータスマッチングの事例を紹介しよう。

   トヨタのレクサスでは、レクサス購入者しか加入できないプラチナカードを提供している。レクサスでは、JALとの提携により、このレクサスカード利用者に、本来はJALの優良顧客向けプレミアムサービスであるクリスタルクラスの特典を期間限定で提供している。

   レクサス側としては、JALの優良顧客向けサービスをステータスマッチング提供できる魅力と、JAL側としては、レクサスという高級車を保有している富裕層顧客を送客してもらうことで、自社の優良顧客に短期間で育成しようとする狙いがマッチしている。

   ベースとなっているのは、顧客へのステータス感をいかに醸成し、それを自社以外のサービスでも提供できるかである。したがって、闇雲に提携を行っても顧客からの支持を得られないし、逆にせっかく育てたブランドイメージを傷つける可能性すらある。


行動ポイント導入のKFS

   では、どのような点に留意して行動ポイント導入を行えば、成功に近づくことができるのであろうか。NRIでは、下記にあげた5つのハードルを越える必要があると考えている。

  1. 優良顧客が、ステータス感を持てる「優遇サービス特典」を用意できること
  2. その「優遇サービス」が、顧客にとって魅力的かつ憧れ的なサービスに映るよう注意を払ってデザインすること
  3. コストはなるべくかけずに実現できること
  4. 一般顧客に対しても、明確に優良会員向けに「優遇サービス」があることを知らしめること
  5. どのような行動をとれば、優良顧客の扱いを受けることができるかが、明確化していること

表3:行動ポイント導入のハードル

   何よりも重要であるのは、利用サイドとして顧客データベースの整備とそれを活用し、優良顧客をどのようにして囲い込むかという明確な方針を持っていることである。システム的には、流通ポイントに行動ポイントが加わることで、データベースの作り込みは複雑にはなるものの、優良顧客を定量的にあぶり出す有効なツールであり、ぜひ活用されることを強く願う。

   ただし、自社の優良顧客の定義付け、優良顧客を育成する道筋の研究、顧客接点の教育・理解を含めた特典サービスの浸透は必須であり、行動ポイントを導入し成功させるためには、自社の総合的なマーケティング戦略の再確認が必要となってくる。

   最終回の次回は、企業通貨の今後の展望について、解説していく。

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株式会社野村総合研究所 梶野 真弘
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  梶野 真弘
東北大学大学院工学研究科原子核工学修了。92年野村総合研究所入社。ポイントプログラムの導入に関する全般的な支援に加え、情報通信分野、消費財分野の事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業支援、アライアンス支援などのコンサルティングに従事。


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第4回:マーケティング手法として注目されている企業通貨の新しい活用方法
  第2のポイント「行動ポイント」とは
  行動ポイントの活用方法〜航空業界
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