第4回:マーケティング手法として注目されている企業通貨の新しい活用方法 (2/3)

企業通貨
新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜

第4回:マーケティング手法として注目されている企業通貨の新しい活用方法

著者:野村総合研究所  梶野 真弘   2007/1/30
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行動ポイントの活用方法〜航空業界

   行動ポイントを実際に導入・活用している事例としては、航空業界のANAやJALがあげられる。両社とも流通ポイントと行動ポイントを使い分けて、自社の会員にポイントを付与することで、顧客管理を行っている。

   また、通常のクレジットカードで貯めたポイントをANAやJALのマイレージに交換できるため、実は買い物などでクレジットカードを利用するだけで、飛行機に乗らなくとも大量のマイレージに変換することが可能である。

   特に、航空業界のマイレージポイントは、顧客から見て知覚価値が高く、このマイレージに他の会社のポイントを集約させようとする傾向が強い。そのため、マイレージポイントの数値だけで優良顧客を選別することは、非優良顧客を優良顧客として扱ってしまう危険性や顧客間の不公平感を醸成してしまう可能性につながる。そのような理由から、収益貢献度を指数化した行動ポイントが導入されている。JALではフライオンポイント、ANAではプラチナポイントと呼ばれるものである。

   両社では過去1年間の行動ポイントの累積値(注2)をベースに優良顧客を3〜4段階に分け、空席待ちの優先や空港での優先セキュリティゲートの用意、優良顧客専用の空港ラウンジ提供、飛行機の優先的な搭乗、預かり荷物の優先搬出、「流通ポイント」であるマイルのボーナスポイント付与など、魅力的な特典を用意している。特に、本業界での取り組みが優れているのは以下の4点である。
  • 優良顧客向けに提供された特典が、お金を払えば必ず利用できるサービスではなく、非優良顧客から憧れを抱かせるサービスとなっており、ある種のステータス感を持たすことに成功したこと
  • 優良顧客でも何段階かに分類し、提供特典のレベルを分け、優良顧客の間においても、より優良顧客化を目指す動きを促すことに成功したこと
  • 自社の企業サイトなどで、あとどの位飛行機を利用すれば優良顧客になれるのかを明確に可視化することで、顧客の意欲向上に成功したこと
  • 優良顧客だけ抽出して、ホテルや高級自動車を紹介するなど、一社では提供できないサービスを他社とアライアンスを組むことで実現し、顧客満足度をアップさせることに成功したこと

表2:航空業界の活用事例のポイント

※注2: 厳密には、両社とも行動ポイント以外にも飛行機を何回利用したかという搭乗回数も行動ポイントの1つとして集計しており、収益貢献度を指数化した行動ポイントと併用して、何種類かの優良顧客のタイプに対応させている。


行動ポイントの活用方法〜携帯電話業界

   携帯電話業界でも、行動ポイントを利用している。ここではNTTドコモを例にとって解説していく。

   携帯電話業界では、携帯電話の利用と同時に利用者全員にポイントを付与するサービスが一般的になっているが、NTTドコモではそのサービスに加えて希望する顧客にプレミアクラブという「特別会員サービス」を提供している。NTTドコモでは携帯電話の年間の利用額をステージポイントに変換し、そのポイントの数値に応じて、4段階の優良顧客層に分けている。

   プレミアクラブの最大の特典は、通常のポイントに加えて、ボーナスポイントを各ステージによって設定していることだ。会員はトータルで最低でも非会員の2倍、最大では5倍のポイントを毎月付与される。

   またプレミアクラブ会員向けに、携帯電話機が故障した場合の保険やバッテリーの交換、携帯電話の専用画面のクーポンを提示することにより、提携店舗からの割引サービスを受けられるというような携帯電話ならではのサービスも提供している。この事例は電話というユニバーサルサービスの呪縛から脱することができた画期的な優良顧客囲い込みプログラムである。

   しかし、日本最大の会員数を誇るポイントプログラムでもあるため、特別感の醸成や演出が難しい面があるのも事実だ。今後は、リアル店舗であるショップでの特典の演出など、顧客にとってのプレミアム感を作り込むことも必要となるであろう。


行動ポイントの活用方法〜銀行

   銀行業界では、どちらからというと「流通ポイント」よりも「行動ポイント」が主流で利用されてきた。その中でも千葉銀行は、行動ポイントを活用した「ひまわり宣言」と、「流通ポイント」を活用した「リーフポイント倶楽部」の2本立てで提供している。

   行動ポイントに関しては、金融取引および預かり資産高に応じてポイントを発行し、そのポイントに応じて、3段階のステージ分けを行っている。そのステージに応じて、自社およびコンビニATMの利用手数料の無料化や金融手数料、各種銀行ローン金利の優遇を特典として提供している。この毎月獲得したポイントをベースに、毎月ステージの見直しが行われる。

   さらに、このステージに応じて「リーフポイント倶楽部」で毎月「リーフ」という流通ポイントが提供され、貯めたリーフポイントで提携企業のポイントやマイレージ、商品券などに交換することが可能になっている。

   千葉銀行の運営の特徴として、行動ポイントの運営を1年ではなく、1ヶ月単位で顧客管理を行っているため、コストコントロールに優れている。特に、特典の1つである銀行ローンの金利優遇は、貸出金額によっては相当量の利益還元になるため、導入時の設計に留意されたことが窺える。

   その反面、顧客視点で見た場合、自分のステータスが取引状況によって毎月変化するため、現在のステータスが把握できていないケースも散見されると推測できる。今後は、顧客のプログラム参加へのモチベーション維持も必要となってこよう。

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株式会社野村総合研究所 梶野 真弘
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  梶野 真弘
東北大学大学院工学研究科原子核工学修了。92年野村総合研究所入社。ポイントプログラムの導入に関する全般的な支援に加え、情報通信分野、消費財分野の事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業支援、アライアンス支援などのコンサルティングに従事。


INDEX
第4回:マーケティング手法として注目されている企業通貨の新しい活用方法
  第2のポイント「行動ポイント」とは
行動ポイントの活用方法〜航空業界
  新しい優良顧客囲い込みの手法、ステータスマッチング
新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜
第1回 企業通貨とは何か
第2回 企業通貨がもたらすインパクト
第3回 企業通貨の導入・運用におけるキーファクター
第4回 マーケティング手法として注目されている企業通貨の新しい活用方法
第5回 企業通貨は「第二の通貨」になり得るか

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