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ERPへのSOA適用による企業システム構築の新たなアプローチ |
第3回:ITガバナンスの考え方と投資利益率の算定手法
著者:オープンストリーム 赤穂 満 2006/12/28
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SOAによるビジネス機会拡大への評価
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SOA適用プロジェクトも同様に、SOAを適用する目的とメリットを明確にし、最終的なROIを算定した上で、経営者の意思決定を得る必要がある。
SOA適用プロジェクトの場合、通常のプロジェクトと異なり、その技術を使用してシステム間連携やサービスの共有化を実現することが目的であり、システムの柔軟性や共有化がプロジェクトの目的である。
したがって、通常のシステム構築プロジェクトと同様に、開発費用やハードウェア/ソフトウェアの購入費用などの投資額に対して、SOA適用から得られるビジネスへの効果を数値化して、ROIを算出する必要がある。
ここでは、SOAプロジェクトのROI算定の評価について、いくつかの評価基準を述べる。
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異機種間接続などに関わる評価 |
通常のプロジェクトにおいて、異機種間での接続を実現する場合、異なるシステム間でのデータインターフェースの設計や言語仕様の制約などがある。また、システムに特化したミドルウェアが必要になることもある。
SOAを適用することにより、標準プロトコルでWebサービスによるメッセージ交換でも、異機種間での連携が可能になる。また、Webサービスが複数存在する場合、ESB(Enterprise Service Bas)によりサービスの疎結合を実現することで、運用も容易になる。
異機種間連携にSOAを適用した場合のROIは、Webサービス構築の開発費用や導入後の効果を数値化することで容易に算定できる。
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サービス共有化の評価 |
SOA適用の目的の1つに「変化に強いビジネスモデルの構築」がある。複数のアプリケーション間で共通性の機能を抜き出してサービス化を行い、アプリケーション間での共有化を実現するものである。共有サービスの構築により、従来のプロジェクトに比べ、設計・開発・テストにかかる開発工数が削減されることはいうまでもない。
この場合、サービスの設計・開発・テストにかかるコストと共有化によるコスト削減というメリットを容易に数値化できる。
ここで注意しなければならないのが、サービスを共有化することで、現業の処理手順を大きく変えなければ実現できないようなことも想定されるということだ。この場合は、現業部門への業務変革というプログラムが必要になり、コストとして算出する必要があろう。
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ERP導入プロジェクトへのSOA適用 |
ここでは、通常のERP導入プロジェクトにおいて、ERPの不適合機能にモディファイやアドオン開発を適用したプロジェクトを想定していただきたい。
SOA適用により、ERPの外部で追加機能を拡張していくことを想定した場合、その開発効率という効果もさることながら、ERPのバージョンアップの度にモディファイ機能やアドオン機能の作動確認をしなくて済むというERP稼働後の保守の軽減がはかれる効果が大きいといえる。
また従来であれば、一度稼働し始めたERPに更にアドオン機能を追加するとういうことは、稼働中のシステムを止めて開発・テスト・搭載という作業を行う必要があった。サービス化による外付けを実現することにより、ERPとの接続時のみシステムを停止すれば連携が可能になり、システムの拡張が容易になる。
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システムの柔軟性の評価 |
ここでは、ビジネスプロセスの変化(追加・削減)などによって、「システムの柔軟性」を問われる場合が想定できる。
このようなケースにおいて、プロセスの変化に対して、サービスを再利用したり、並べ替えたりする必要がある。サービス化の検討段階でも十分に想定してサービスの設計をしているはずであるが、そのようなケースに直面してはじめて効果が評価できるものである。適用時点で効果を予測することは困難であり、中長期的な視点で評価を行う必要があると思われる。
これら以外にも、コンプライアンスやシェアードサービスなどの面でも、サービス化適用の範囲は十分に想定できる。これらについては短期的な期待効果を算出することは難しく、中長期的に取組む必要があると思われる。
このように、一連のSOA適用については、多くの企業が取り組んでいる課題でもあり、システム化のROIだけでなく、ブランド価値の向上という側面での効果も十分に期待できるのである。
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まとめ |
SOAについては、ここ2〜3年で大きく進展し、多くの企業が適用を検討している。しかし、これについて最適な適用方法というものがあるわけではなく、企業の直面している課題と投資規模により実現可能な適用方法を見つけ出す以外に方法はないものと思われる。
恐らく同じ業種で同様の課題を抱えている企業が、10社あったとしてもSOA適用に関する取り組みについては、すべてが異なる適用方針を打ち出すであろう。なぜならSOAというのは、適用段階よりも適用してからのビジネスモデルの変化に対応させていくことが、重要な課題であるからである。
ただし、サービスという資金的にも限定されたモデルで構成されているため、最小のサービス化を適用するプロジェクトでもROIの算定は十分可能である。その場合は最小のサービスではじめて、その後のビジネスモデルの変化を予見しながら、拡張していくという方法がある。また今抱えている課題をSOA適用とERP導入によって解決した後、さらなる拡張に取り組むことも可能だ。
SOA適用のブループリントを描く場合、従来のような短期的なシステム化計画と異なり、中長期的なベストプラクティスの姿を描いた上で、短期的なアクションプランを検討する必要があるだろう。
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著者プロフィール
株式会社オープンストリーム 赤穂 満
サービス推進兼SAXICE推進担当 統括ディレクタ
活動状況:これまでに、製品ライフサイクル、製品構成情報管理やビジネスモデルなどに関する解説記事、論文多数。
所属学会:日本設計工学会、経営情報学会、ビジネスモデル学会、正会員。
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