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Ajax時代到来
Ajaxではじまるサービス活用

第4回:Windows Liveで見せるMicrosoftの懐の深さ

著者:ピーデー  川俣 晶   2007/3/12
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技術面から見たAjax戦略

   技術面から見たMicrosoftのAjax戦略は、単純には要約できない。そのことは、MicrosoftのAjax開発技術であるMicrosoft ASP.NET AJAXを見るとわかる。

   このMicrosoft ASP.NET AJAXという技術には、実はまったく異なる3つの側面がある。
ASP.NET開発者の機能強化手段
これまでのMicosoftの主力Web開発技術であるASP.NETを強化する機能を持つ。従来のASP.NETは、サーバ側技術であったため、何らかの処理が必要とされると必ずサーバへの送信とページ全体の入れ替えが発生した。しかし、Microsoft ASP.NET AJAXを使うとページの部分更新が可能になり、使い勝手が向上する。しかも、この機能は自動的に実現されるので、プログラマはJavaScriptなどのクライアント側技術を学ぶ必要がない。
Ajax開発者のためのライブラリ
JavaScriptから呼びだすことができる便利な機能が詰まったライブラリを提供する。これを活用することで、JavaScriptプログラマはより短い時間、より少ないコードでよりリッチなプログラムを作成することができる。もちろん世の中には、他にも同様のライブラリがある。Microsoft ASP.NET AJAXの特徴は、ライブラリの構造やネーミングなどが他のMicrosoftの技術と親和性があり、それらを知るプログラマにとって移行しやすい点にある。
PHP開発者のためのライブラリ
実は、Microsoft ASP.NET AJAXはWebアプリケーションの開発言語として人気のあるPHPとの親和性にも配慮されている。いうまでもなくPHPはMicrosoftの技術ではないが、Web開発の世界では非常に人気の高いものである。すでに普及した技術を排斥せず、それに対する配慮を持つことは(それが全機能ではないとしても)好ましいことだといえるだろう。

表2:Microsoft .NET Ajaxの3つの側面

   このように、1つの名前を持つ技術ではあるが、内容は一筋縄ではいかない多角的なものである。

   さて、Microsoftはこれらの技術を使って呼びだすWebサービスの整備についても、まったく手抜かりはない。Windows Liveブランドで公開される検索やメッセンジャのAPIが公開されているほか、地図サービスを提供する「Virtual Earth」のAPIも提供される。

   これらについての情報は「Windows Live Developer Center」というWebサイトで一括して提供されている。



オフラインで動作するLive

   もう1つだけ余談的に興味深い技術について紹介しよう。

   Liveというブランドを持った技術はすべてWebアプリケーションというわけではない。「Windows Live Writer」と呼ばれるソフトは、ブログの文書を作成して送信するスタンドアロンのWindowsアプリケーションである。


   Windows Liveブランドのblogである「Windows Live Space」だけでなく、MovableTypeなどの他のブログにも送信することができる。

   いうまでもなく、スタンドアロンのアプリケーションソフトの方が、Webアプリケーションよりも高い使い勝手を実現できる。blogの原稿書きという作業は毎日繰り返し発生する作業なので、それに特化した専用ツールを作ることは意味があるのだろう。

   しかし、これは単にツールがあるというだけではない。このツールは容易にプラグインを開発することができ、機能を拡張していくことができるのである。それも単に機能を拡張できます、というレベルではなく、シームレスに統合された便利なユーザインターフェースを容易に実装することができる仕掛けである。

   果たして、このようなツールが受け入れられるかは興味深いところである。あくまでWebブラウザだけをプラットフォームとして活用し、スタンドアロンアプリケーションは流行らないのか、それともスタンドアロンアプリケーションにも出番があるのか。成り行きを見守りたい。


未来は不明

   よく誤解されるが、Microsoftという企業に固有の意志はない。もちろん、ビル・ゲイツという個人と企業がイコールということもない。

   他のどのような巨大組織とも同様に、必ずしも同じ考え、主義主張を持っていない多数の人間が集まったのがMicrosoftという企業である。

   それゆえに、「MicrosoftはAが好きだから」であるとか「MicrosoftはいつもBをするから」といった個人に見立てた推測は、常に裏切られる運命にある。企業内の別の部門ではまったく異なる戦略や主義主張によって動いている可能性があり、主導権を誰が取るかによってMicrosoftという企業から発せられるメッセージが180度変わってしまうこともあり得る。

   それゆえに、Microsoftが持つAjax戦略も多角的であり、たった1つの方向性に絞れるものではない。

   また、それらの方向性のうちどれが主導権を取っていくのかも明確には見えない。Microsoft内部でAjaxを担う者達がこれから企業内で主導権を取っていけるのかもわからない。もしかしたら、Webアプリケーションよりも従来型のスタンドアロンアプリケーション中心に回帰していく可能性もないとはいえない。しかし、Ajaxが完全に放棄されるという可能性もあり得ないだろう。

   それゆえに、MicrosoftのAjax戦略の未来は不明である。

   我々にできることは、ともかくMicrosoftのAjax関連のサービスなどを使ってみることである。そして、それが素晴らしいものであれば、活用していけばよい。支持されたサービスがあればMicrosoftは熱心に改善していってくれるだろう。


次回予告

   次回は、デザイン系のツールではナンバーワンといえるAdobeのAjax戦略を見ていこう。

   Adobeはインターネット上のリッチなコンテンツを作成するFlashの技術を取り込んでいるが、もともとFlashはAjaxのライバルと目されている技術である。それにも関わらず紹介するのは、FlashとAjaxを連携させることで新しい価値を創出していく動きがみられるためだ。このようなユニークなAjax戦略を紹介していきたい。

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株式会社ピーデー 川俣 晶
著者プロフィール
株式会社ピーデー   川俣 晶
株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、Microsoft Most Valuable Professional(MVP)、Visual Developer - Visual Basic。マイクロソフト株式会社にてWindows 3.0の日本語化などの作業を行った後、技術解説家に。Java、Linuxなどにもいち早く着目して活用。現在はC#で開発を行い、現在の注目技術はAjaxとXMLデータベース。


INDEX
第4回:Windows Liveで見せるMicrosoftの懐の深さ
  Ajaxの生みの親は誰か
  Ajaxが1998年に目覚めなかった理由とは
  Microsoftの2本の柱
技術面から見たAjax戦略