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調査レポート
> SaaSが適する場合、適さない場合
胎動するSaaS〜導入にあたってのチェックポイント〜
第2回:徹底比較!! TCOからみたSaaSモデルvsライセンスモデル
著者:
野村総合研究所 城田 真琴
2007/1/24
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SaaSが適する場合、適さない場合
自社にとって、SaaSモデルとライセンスモデルのどちらが適しているかは、TCO以外にも検討すべき点がある。
例えば、一定規模以上の会社になると事業所が地理的に分散する場合が多いが、こうしたケースで全社共通のアプリケーションを導入しようとすると、システム管理の問題に直面する。各拠点に管理者を配置することが難しいからだ。このケースでは、システム管理をベンダー側に任せられるSaaSの利用が効果的だろう。
カスタマイズ性の問題も重要である。ASP 2.0としてのSaaSアプリケーションは、カスタマイズ性が従来のASPと比べかなり向上しているものの、自社で所有するソフトウェアのように大規模なカスタマイズが可能なわけではないし、現実的ではない。このようにフルにカスタマイズを行いたい場合は、自社でアプリケーションを所有する場合と比べてSaaSは不利である。
また、以前のASP時代から障壁となっていたように、重要な顧客データを第三者に預けることに対して、依然として抵抗感を覚える企業も少なくない。顧客データに限らず、すべてを自社で保有しないと気が済まない企業も大企業を中心としてまだまだ多い。こうした企業にとっては、ASP時代同様、TCOの問題以前にアプリケーションをアウトソーシングするという形態そのものがそぐわないといえよう。
一方、中小企業のように資金力に乏しく、専任のシステム管理者の確保が難しい場合は、SaaSは魅力的な選択肢となる。大規模な初期投資なしに、アプリケーションを使いはじめることができ、自分たちに合わない場合はすぐに利用を停止することができる。また、運用管理もベンダーに任せることができる。さらに、事業が拡大しユーザ数が増加する場合には、利用料金をユーザ数の増加分だけ増額すればすぐに利用できるというメリットもある。
このようにSaaSは、なるべくコストをかけずに迅速に利用を開始したい場合や、すぐに利用をやめてしまう可能性があり先の利用が読めない場合、どれだけ利用者が増加するか予測するのが難しい場合などに適している。
SaaS導入における留意点
ソフトウェアの導入にかかる手間やコストを極力減らし、迅速に利用を開始したい企業にとって、SaaSは有力な選択肢の1つとなることは間違いない。SaaSの導入を検討する際に注意したいポイントを表5に示す。
機能
ライセンス型のソフトウェアとの機能比較
他のSaaSベンダーとの比較
データ/アプリケーション統合のしやすさ
バックエンドのアプリケーションやデータとの統合の可否
他のSaaSアプリケーションとの統合の可否
SOAサポートの有無
カスタマイズ性
基本的な設定のほか、機能やデータセキュリティ、ユーザインターフェースなどのカスタマイズ性
テナンシーモデル
マルチテナントアーキテクチャ(複数の顧客でアプリケーションやサーバ、データベースを共有するモデル)の場合のデータテーブルの扱い(スキーマの共有/分離)
SLA/パフォーマンスの保証
スケーラビリティ
サービス停止時の保証
バックアップやリカバリなどのサービスの有無
アドオンコスト
携帯電話などモバイルデバイスのサポート
ディスク容量追加時などの追加料金
データの移行性
SaaSベンダーを乗り換えたり、利用を停止する場合のデータ移行の可否
データ移行ツールの有無
表6:SaaS導入における留意点
以下、それぞれの留意点について説明する。
機能
当たり前の話ではあるが、ライセンス型のソフトウェアと比較して機能的に十分か否かは、きちんとチェックすべきである。
製品によって違いは当然あるが、一般的に機能の豊富さではライセンス型のソフトウェアに軍配が上がる。いくら低コストで利用できても、自社にとって必要な機能が欠けていては本末転倒である。また、CRMのようにSaaSの選択肢が複数ある場合は、SaaS間での比較も当然欠かせない。
データ/アプリケーション統合のしやすさ
既存のアプリケーションやデータとの統合は可能かどうかは、確認するべき重要な項目である。
セールスフォース・ドットコムでは「AppExchange」、Netsuiteでは「Suiteflex」という自社のアプリケーションと他社のアプリケーションを連携可能とするプラットフォームを提供している。また、ユーザ側の既存アプリケーションやSAP/R3などのパッケージソフトとの統合を容易にするAPIも公開している。
カスタマイズ性
標準的なコンフィグレーション以外に、どの程度ユーザ要件に合わせたカスタマイズができるかどうかは必ず確認したい。例えば、データテーブルやフォーム、タブの追加、変更などが可能かどうかを確認する必要がある。
テナンシーモデル
テナンシーモデルはマルチテナントかシングルテナントかどうかを確認する。マルチテナントの場合、共有方式に様々な形態がある。
例えばデータベースの共有では、データベースは共有するがスキーマは個別に保有する方式や、スキーマも共有する方式がある。当然、スキーマを個別に保有する方がセキュリティレベルは高くなるが、その分コスト増に繋がるケースが多い。一方、スキーマも共有する方式は、コストは下がるが、その分、セキュリティに対する不安が増す。もっとも、ベンダー側でもさまざまな対策を講じているので、不安が払拭できるまで説明を求めるべきだ。
SLA/パフォーマンスの保証
十分なスケーラビリティは確保されているかどうかを確認する。万が一、サービスが停止した場合には、どのような保証がなされるか(SLA:Service Level Agreement)も確認する。バックアップやリカバリなどのサービスが提供されているかどうかも確認したい。
アドオンコスト
サービス利用端末として携帯電話などモバイルデバイスを利用する際や、標準のディスク容量を超えたためディスクを追加する際などに、別途料金が発生する場合があるので、あらかじめ確認しておく。
データの移行性
利用の途中でSaaSベンダーを乗り換えたり、利用を停止する場合には、データの移行が可能かどうかを留意する。また、データの移行を容易にしてくれるツールなどが提供されているかどうかを確認する。
以上、今回はSaaSの推進要因とその中でも大きな要素となるTCO(Total Cost of Ownership)を中心に、SaaSモデルとライセンスモデルについて比較すると同時に、SaaS導入の際の留意点について解説した。次回はSaaSの発展の方向性と既存ITベンダーに与える影響について解説する予定である。
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著者プロフィール
株式会社野村総合研究所 主任研究員 城田 真琴
IT動向のリサーチと分析を行うITアナリスト。大手メーカーのシステムコンサルティング部門を経て2001年、野村総合研究所に入社。専門は、SaaSの他、SOA、BI、オープンソースなど。最近は、Web2.0の技術的側面からのリサーチを推進。2007年1月4日より著書の「ITロードマップ 2007年版 - 情報通信技術は5年後こう変わる! - 」(東洋経済新報社)が発売されている。
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第2回:徹底比較!! TCOからみたSaaSモデルvsライセンスモデル
SaaSの推進要因
TCOの比較:SaaSモデルか、ライセンスモデルか?
SaaSが適する場合、適さない場合