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事例から学ぶBCMの本質

第2回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜エネルギー会社の対応事例

著者:みずほ情報総研  多田 浩之   2007/1/26
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サザンカンパニーのBCMの基本方針とその対応

   サザンカンパニーが迅速な事業の復旧・継続に成功した最大の要因は、通常期から復旧期に至る危機管理フェーズごとに、復旧計画を中心とした同社のBCMの基本方針がしっかりしたものであり、さらにそれが日常業務の中で定着したものであるということです(表2)。
危機管理
フェーズ
BCMの基本方針(例)
方針 概要
通常・準備期 周到なBCP(復旧計画) ハリケーン災害に対する周到な復旧計画を準備。最悪のシナリオを想定し、バックアッププランも準備。
災害時の責任・権限の明確化 災害指揮者(20名)を任命。災害時における災害指揮者の役割/責任および権限を明確化。
非常時通信システムの整備 日常の保守/点検業務において、災害に強い社内無線通信システムを導入。
相互支援協定 外部電力会社との災害時相互支援協定を締結。
災害シミュレーション演習 毎年1回、従業員全員が災害時における復旧計画のあらゆる局面の理解を深める目的で、大規模災害を想定したシミュレーション演習を実施。
警戒期 予防的な応急対策 災害が顕在化する前に、事前の予防的な応急対策を実施する。
緊急時 必要物資の調達 可能な限り、自社内で災害時に必要な物資を確保する。テント、簡易ベッド、食料、飲料水などの緊急時用生活物資は、外部供給者から調達する。
被災地域の事業所レベルでの意思決定の権限 被災地域に近い子会社や事業所に対して、応急対応や復旧に関する意思決定の権限を与える(20年前までは、ハリケーン災害対応は、トップダウンにより行われていた)。
復旧期 災害教訓の検証 災害を経験した後に、その教訓を迅速に復旧計画に反映する。

表2:サザンカンパニーにおける危機管理フェーズ別のBCMの基本方針の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

   表2に示したように、サザンカンパニーのBCMの基本方針は極めて実践的なものといえます。それは、同社がこれまで経験してきた数多くの自然災害に対する教訓に基づいているからです。

   実際、同社の会長兼CEOであるDavid Ratcliffe氏は、前述した上院の聴聞会で、大規模ハリケーン災害などを経験するごとに、それを教訓として災害時復旧計画に反映してきたことを証言しています。

   では次に、同社が当該危機において実施した具体的な応急対応の例を述べます。


ハリケーン・カトリーナ危機において実施した応急対応の例

   表3および表4に、ハリケーン・カトリーナ再上陸前と再上陸後に分けて、同社が実施した具体的な応急対策・対応の例を示します。

対策・
対応期間
具体的な応急対策・対応の例
ハリケーン・
カトリーナ
再上陸前
子会社であるミシシッピ電力の社長が応急・復旧活動を指揮することを決定。
ミシシッピ電力自身で、3つの異なる気象予報サービスを購入。どの予報が最も正確であるかを社内で判断。この判断に基づき、ハリケーン・カトリーナ再上陸前に、20名の災害指揮者と災害対応協議を行い、余裕を持って復旧計画を発動(各災害指揮者の責任・権限は、その役割(送電線復旧、ロジスティックス、セキュリティなど)によって完全に明確化されている)。
サザンカンパニーのミシシッピ州外からの2,400人の作業員が、暴風圏外近隣地域で事前待機。外部電力会社との相互支援協定により、11,000人の外部電力作業員がミシシッピ電力を応援。
ハリケーン・カトリーナ再上陸前に、ミシシッピ電力が非常時用の物資・設備の確保のため、700万ドルを投入。
これらの応援作業員に、仮設住居(12の「テントシティ」を設営)、食事(毎日3食、3万食を用意)、53万リットルの燃料(トラック5,000台分)、破傷風予防注射などを提供。
ハリケーン・カトリーナ再上陸の24時間前に、ミシシッピ電力本社の一次的な暴風対策センター機能を、バックアップ・オフィス(本社から5マイル程度内陸側に位置する)に移転。

表3:ハリケーン・カトリーナ再上陸前の具体的な応急対策・対応の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

対策・対応期間 具体的な応急対策・対応の例
ハリケーン・カトリーナ再上陸後 配電・送電・発電・情報通信部門間で協調して、復旧のニーズと優先事項を決定し、迅速に対応。待機場所の設定・運営や、食料・飲料水、燃料、セキュリティ、シェルターなどの調達を行い、現場の保守要員への必要な資材や設備の供給に成功。
ハリケーン・カトリーナ再上陸後24時間以内に、地上および空中から75%以上の発電等の施設や設備に関する被害評価を完了(2,400人の作業員を事前待機させたこと、事前に複数の航空機の利用契約をしていたことが、これを可能にした最大の要因)。
ハリケーン・カトリーナ再上陸の5日後に、全クライアントに対して停電復旧の目標日を発表。公衆に対し、毎日、この目標達成に向けた進展状況についての情報を提供。
ハリケーン・カトリーナ再上陸後、12日間で停電復旧完了。

表4:ハリケーン・カトリーナ再上陸後の具体的な応急対策・対応の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

   サザンカンパニーの子会社であるミシシッピ電力では、複数の民間の気象予報から、ハリケーン・カトリーナがメキシコ湾岸に再上陸し、ミシシッピ電力の本社があるミシシッピ州ガルフポート市周辺を直撃することを予測していました。その点を考慮し、ミシシッピ電力の社長自らが応急・復旧活動を指揮することを最終決定しました。

   ミシシッピ電力は小規模な電力会社であり、配電・送電設備の65%を損傷するなどの甚大な被害を受けましたが、当該災害に対するBCMが成功した大きな要因として、十分に練られた事前復旧計画の迅速かつ確実な実施、被災現地での危機管理指導力、外部からの応援などがあげられています。

   実際、当該災害はミシシッピ電力で想定していた最悪のシナリオを大きく超えるものでした。このような状況でも被災現場にて迅速かつ適切な復旧活動を行うことができたのは、災害シミュレーション演習などによる従業員への危機管理教育が徹底しており、復旧活動のあらゆる局面においてバックアッププランを用意していたからです。 さらに、サザンカンパニー全体として採用していた「社内無線システム」が大きな威力を発揮しました。

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みずほ情報総研株式会社 多田 浩之
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社
多田 浩之

情報・コミュニケーション部 シニアマネジャー
1984年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学研究科修了、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。専門は非常時通信、危機管理および産業インフラリスク解析。現在、ICTを活用した産学連携安全安心プラットフォーム共同研究に携わる。中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」下の小委員会・分科会委員、内閣府「消費者教育ポータルサイト研究会」委員などを歴任。


INDEX
第2回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜エネルギー会社の対応事例
  ハリケーン・カトリーナ危機に対するBCMに成功した米国企業
サザンカンパニーのBCMの基本方針とその対応
  サザンカンパニーの社内無線システムの効果