ミシシッピ電力は、ハリケーン・カトリーナ再上陸の24時間前に本社の暴風対策センター機能をバックアップオフィスに移転させました(表3)。
対策・ 対応期間 |
具体的な応急対策・対応の例 |
ハリケーン・ カトリーナ 再上陸前 |
子会社であるミシシッピ電力の社長が応急・復旧活動を指揮することを決定。 |
ミシシッピ電力自身で、3つの異なる気象予報サービスを購入。どの予報が最も正確であるかを社内で判断。この判断に基づき、ハリケーン・カトリーナ再上陸前に、20名の災害指揮者と災害対応協議を行い、余裕を持って復旧計画を発動(各災害指揮者の責任・権限は、その役割(送電線復旧、ロジスティックス、セキュリティなど)によって完全に明確化されている)。 |
サザンカンパニーのミシシッピ州外からの2,400人の作業員が、暴風圏外近隣地域で事前待機。外部電力会社との相互支援協定により、11,000人の外部電力作業員がミシシッピ電力を応援。 |
ハリケーン・カトリーナ再上陸前に、ミシシッピ電力が非常時用の物資・設備の確保のため、700万ドルを投入。 |
これらの応援作業員に、仮設住居(12の「テントシティ」を設営)、食事(毎日3食、3万食を用意)、53万リットルの燃料(トラック5,000台分)、破傷風予防注射などを提供。 |
ハリケーン・カトリーナ再上陸の24時間前に、ミシシッピ電力本社の一次的な暴風対策センター機能を、バックアップ・オフィス(本社から5マイル程度内陸側に位置する)に移転。 |
表3:ハリケーン・カトリーナ再上陸前の具体的な応急対策・対応の例(再掲) (上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)
当該災害を通して、このバックアップオフィスは生き残りましたが、固定電話および携帯電話は不通の状態でした。この際、最後の通信手段となったのが、SouthernLink Wireless(サザンカンパニーの通信子会社)が提供する無線システムでした。
この無線システムは、モトローラのiDEN(integrated Digital Enhanced Network)技術を利用した商用無線システムです。この無線システムの最大の特徴は、プッシュ型無線通信機能(トランシーバのように、ボタン操作でグループ会話が可能)を備えていることです。それ以外に、デジタル携帯電話、SMS(注3)、無線データ・ファクシミリ通信などの機能を利用することができます。
※注3:
SMS(Short Message Service)とは、携帯電話同士で短い文字メッセージを送受信できるサービス。
しかもこの無線システムは、強風に強い無線塔と冗長化した電子機器を持つ基地局を備えています。ハリケーン・カトリーナ再上陸後、いくつかの基地局が被害を受けましたが、3日後には災害前のレベルにまで機能を回復したようです。
なお、サザンカンパニーでは、この無線システムを日常の業務用通信システムとして採用していましたが、この他にも非常用通信システムとして、衛星電話やマイクロ波回線、衛星インターネットサービスなども導入していました。
日本国内においても、大規模震災に備えて災害に強い通信システムの整備が検討されており、この一環として、自治体レベルで衛星電話が非常用通信システム(バックアップ通信システム)として導入されています。
サザンカンパニーのケースのように、日常の業務で利用している通信システムが非常用通信システムとして機能したことは、企業における今後の非常用通信システムのあり方を考える際に、大きな示唆を与えるものではないでしょうか。
次回は、スターウッドホテルの事例について解説します。
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