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ビジネスとITのギャップを埋める〜システム開発の失敗を招く4種類のギャップ〜

第1回:ビジネスとITのギャップとは何か
著者:ウルシステムズ  林 浩一   2007/3/9
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スキルのギャップ

   スキルのギャップが引き起こす失敗のパターンは「必要な機能や性能を持つシステムができない」ことだ。
スキルのギャップ
図6:スキルのギャップ

   このような失敗が起きると、多くの場合、テストフェーズで問題がなかなか解決できずカットオーバーが遅れることになり、さらに問題が解決できずプロジェクトを断念することもある。最悪の場合、本格稼働後に致命的な問題が発生することもあり、その場合は、社会的な信用失墜にもつながりかねない。

   電子商取り引きの事例では通常のWebアプリケーションの開発とは異なり、お互いにサーバを立ててデータ通信を行うシステム構成だったことと、XMLメッセージ通信用の専用サーバを利用して接続するという特徴があった。当時はまだXMLメッセージの交換でシステム連携する技術が成熟していなかったために技術者が少なく、接続時の問題解決に手間がかかることも多かった。

   前述の認証機能の不足によってプロジェクトが遅延した例では、フロー制御などが可能な高機能な通信サーバを使用したが、導入実績が少ないためにノウハウを十分蓄積できていなかったことが災いした。サーバの内部の動きがブラックボックスになっていたために、結局、製造ベンダーのエンジニアでなければ原因を特定することができなかったのである。

   スキルのギャップの正体は、要求されている機能と性能を満たすシステムを作るのに必要な技術が足りていないということだ。必要な技術力を持った要員を投入できていないために、求められるシステムを作ることができなくなるのだ。

   事例の場合は、当時の最先端領域の技術が必要であったという事情はあるものの、IT技術の進歩は速く、新規技術の採用が必要になるケースは少なくない。また、広く普及した技術であっても選定した開発ベンダーの事情によっては、スキルの高い要員を投入できるとは限らない。

   スキルのギャップを埋めるには、適用する技術の選定を、開発に携わる技術者の確保も含めて行う必要がある。採用しようとするパッケージの技術評価をしっかり行うとともに、中核となる技術者についてのスキル評価ができる力が必要になる。


ユーザ企業が強くなる

   これまで述べてきたシステム開発の失敗パターンに陥ることなく、ITを活かしたビジネスを成功させるためには、それらの失敗の要因である4つのギャップを埋める必要がある。では、これらのギャップを埋める役割を果たすのはいったい誰だろうか。

   筆者は、その中心となるのはシステム開発を発注するユーザ企業、特に情報システム部門になると考えている。

   ビジネス上の目的をシステム以外の施策とともに企画し、それを支える業務のあるべき姿を決めるのは、ユーザ企業の仕事である。そして、プロジェクト管理や必要な技術を持つベンダーに発注する責任は、ユーザ企業の情報システム部門にある。

   つまり、ユーザ企業の情報システム部門がビジネス的な目的とシステムとを整合させ、業務部門の業務を把握し、プロジェクト管理ができ、十分な技術力を持つ要員を確保する力を持つことができれば失敗を未然に防ぐことが可能になるのだ。

   とはいえ、理想型がそうであったとしても、技術の進歩が速い中で、情報システム部門にそれだけの人材を抱える余裕がないというのもまた実情である。このため、リソースが不足している部分については、外部からのコンサルティングや技術支援を使うことが現実解になってくる。

   次回からは、それぞれの種類のギャップを埋めるためにはユーザ企業にはどのような活動が必要になるのか、そしてそのためにはどのような支援を求めていけばよいのかについて、事例を用いて詳しく見ていく。

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ウルシステムズ株式会社 林 浩一
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  林 浩一
アジャイル開発手法やXML技術を駆使して、ビジネスとITのギャップを埋めるITコンサルティングを行う部門を率いるディレクター。お客様のビジネスを本当に支援できる先端技術の活用を目指して、理論と実践の両面からアプローチしている。


INDEX
第1回:ビジネスとITのギャップとは何か
  ビジネスとITのギャップには種類がある
  XML-EDIの事例
  アクティビティのギャップ
スキルのギャップ