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ビジネスとITのギャップを埋める〜システム開発の失敗を招く4種類のギャップ〜

第2回:CEOと情報部門の認識のずれが失敗を招く
著者:ウルシステムズ  土田 浩之   2007/4/10
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経営層から降ってくる無理難題

   企業の吸収合併におけるビジネス上の目的としては、例えば以下のようなものがある。
  • 国内シェア2位と3位の企業が合併することで、世界市場で優位に戦える企業に成長したい
  • 自社が事業として補完したいビジネスを、すでに成立させている企業を買収することで早期に利益をだしたい
  • 提携関係にある現地の企業を吸収し、本社の経営判断に即応させることで販売機会の損失を防ぎたい

表2:企業の吸収合併におけるビジネス上の目的

   基幹業務がシステムに依存している現在、企業を吸収合併する場合にはシステムの改修が不可欠であり、その点については経営トップのCEOも当然理解していると考えられる。企業間の吸収合併に際し、CEOから情報システム部門へ望まれる要望の多くは以下のようになる。

  • 我が社の既存ユーザに、合併したB社の製品を紹介したいので、すぐに我が社のCRMと連携した販売戦略を立てられるようにして欲しい
  • 会計システムは同じERP製品を利用しているらしいので、来月からでも両社の情報を一括して扱えるようにして欲しい
  • 営業が利用する受発注画面はほとんど一緒であるうえ、B社のシステムは昨年入れ替えたようなので、今年でライセンスが切れる我が社のシステムは捨ててB社のものを使えるようにして欲しい
  • 情報システム部門は2つは要らないので、吸収合併前の人数に削減してくれ

表3:CEOから情報システム部門への要望

   これらは、いずれもそう簡単に実現できる要望ではないが「もし実現されなければ本来の吸収合併のゴールを達成することができない」と判断されかねない。しかも短期間で実現できなければ意味がない、とまで追い込まれるケースもあるだろう。


苦境に立たされる情報システム部門

   情報システム部門にしてみると「与えられた期限内ではとても実現できない」とわかっていても、そのことをCEOをはじめとする経営層に納得してもらえるように説明することは難しい。そのため、情報システム部門としては無理やりにでも対応せざるを得ない状況に追い込まれてしまう状況がしばしば発生する。

   こうなると、情報システム部門としては、SIerやベンダーを巻き込んで連日徹夜で対応することになるが、結局はCEOから指示された納期に間に合わせることができず、吸収合併のコストを押し上げ、最悪の場合、ビジネス機会を失ってしまうことになりかねない。

   運良く、すべてのシステムとスタッフを平行稼動させることで連携できたとしても、運用コストが膨大になってしまったり、プロジェクトに関わったスタッフの誰も理解できないシステムができあがったり、トラブルが発生した場合の収拾がつかなかったりなど、中長期的に安定したシステムを構築することは難しい。さらに、それらが落ち着く間もなく別の吸収合併の話が持ち上がるとしたら、非常に大変である。

   これらの点は、ビジネスの目的を達成するための手段である企業間の吸収合併をシステム連携が障害となって遂げられないことがある、ということを意味している。事情がどうあれCEOには、システムがビジネスの足を引っ張ってしまったと受け取られることは間違いない。そのときに、責任の矛先がどこに向かうのかはいうまでもないだろう。

   このような状況に陥ってしまう原因は「ゴールのギャップ」にある。ここでのゴールのギャップとは、経営者と情報システム部門との間に起こるビジネスの目的とそのシステムによる実現方法に関する認識のずれのことだ。

   この原因は企業合併によるシステム統合のイメージが、経営者と情報システム部門で異なっていることにある。この認識のずれが解決されなければ、共通認識をベースとした現実的な施策が生まれることはない。

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ウルシステムズ株式会社 土田 浩之
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  土田 浩之
10年以上メーカにおいて様々な業種のシステム開発に関わる。特に、大規模なシステム開発の経験を活かし、ビジネスが求めるシステムと実際に開発されるシステムとのギャップを埋めるべくコンサルティング業に従事。


INDEX
第2回:CEOと情報部門の認識のずれが失敗を招く
  ゴールのギャップとは
経営層から降ってくる無理難題
  ゴールのギャップの根本原因