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Webビジネスの現在と未来

第1回:変化が加速するWebビジネス

著者:野村総合研究所  小林 慎和   2007/3/26
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Webビジネスの全体像

   Webビジネスと一口にいっても、様々な定義がある。Webビジネスよりも広義の言葉として用いられるIT市場は一般的に、次の4つのサービスレイヤで定義される(表1)。
  • コンテンツ/アプリケーションレイヤ
  • プラットフォームレイヤ
  • インフラレイヤ
  • 端末レイヤ

表1:IT市場の4つのレイヤ

   例えば、ドコモやKDDIなどの携帯電話会社の場合は、携帯電話向け通信インフラを持ち、事業収入のほとんどをそのインフラから得られるトラフィック通信に依存している。またその携帯電話会社に携帯電話端末を供給しているのは、シャープやパナソニックモバイルコミュニケーションズなどいわゆる大手家電メーカーである。彼らは、携帯電話会社への端末販売費で事業収入を得ている。よって携帯電話会社はインフラレイヤで、携帯電話端末を供給する事業者は端末レイヤで事業を行っているといえる。

   この4つのサービスレイヤで見た場合、Webビジネスとは上位2レイヤに事業フィールドを置いているビジネスだと定義できる。この2レイヤに焦点を絞り、現在すでに市場が形成されているものをマッピングすると図2のようにあらわすことができる。

Webビジネス全体像 出所:各種公開情報より野村総合研究所作成
図2:Webビジネス全体像
出所:各種公開情報より野村総合研究所作成
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   mixiに代表されるように急激に会員数を伸ばしているSNSはコンテンツ/アプリケーションレイヤに位置づけられるサービスといえる。一方、楽天のような電子商取り引き(EC)のモールを提供している事業者やGoogleのように検索サービスを提供している事業者、Yahoo!のようにポータルサイトを提供している事業者はプラットフォームレイヤに位置づく事業者となる。

   図2では、縦軸の2つのレイヤに加えて、横軸にWebサービスを利用する消費者の行動プロセスをあらわしている。AISEAS(アイシーズ)という独自のプロセスをここでは活用している。AISEASとは、Attention(気づき)、Interest(興味)、Search(検索)、Experience(体験、生活)、Action(行動、購買)、Share(情報共有、共感)のそれぞれの頭文字を取ったものである。現在のWebビジネスは、この行動プロセスの一部またはすべてをカバーしている事業といえる。

   カバーするプロセスが異なることで、そのビジネスによって得られる収益源も異なる。例えば、ポータルや検索サービスを展開しているビジネスの場合、主な収益源はインターネット広告である。ポータルサイトは情報への玄関口の役目を果たしているものであるため、消費者による閲覧量に依存した広告費の収益を上げることが想定される。ポータルサイトトップはYahoo!で、1日閲覧数(PV)が6億を超えている。これが広告収入を上げることができる理由である。現在、Yahoo!はインターネット広告市場において市場シェア3割近くを誇っている。

   ブログやSNSは、消費者がそのWebサイト内に自らの記事を投稿することで、情報の発信・共有をするサービスである。この場合、AISEASの行動プロセスでは最後のShareに位置づくサービスとなる。このサービスによって得られる収益は、Webサイトへの多数の閲覧が期待されることからインターネット広告費が収益の源泉として考えられる。他の収益としては、プレミアムサービスなど機能を高度化した形で提供することで、月ごとにサービス利用料を消費者から徴収しているものもある。

   各種Webビジネスが提供されはじめたころは、それぞれ行動プロセスの一領域をカバーするに留まっていた。しかし、現在各事業者が目論んでいることは、提供領域の拡大であり、最終的なサービスのフルラインナップ化を急いでいるといえる。

   例えば、Yahoo!はポータル事業にはじまり、検索サービスやヤフーショッピングによるEC、さらにはYahoo! 360°やYahoo!ブログによるコミュニケーションサービスを展開し、行動プロセスのすべてを押さえようと動いている。一方mixiの場合は、AISEASのShareのみの事業展開から動画コンテンツの配信へ拡大しようとしている。これは、Actionのプロセスへの事業拡大と説明することができる。

   いずれの事業者も本来事業展開していた領域から、新たな収益源を確保するため新領域に拡大しようとしていることがうかがえる。

   このように各種ビジネスが展開されているが、今Webビジネス界でもっとも注目を集めているのが、Second Lifeに代表される仮想生活空間(Cyberspace)を提供するサービスである。これはWeb上に構築された世界の中で擬似生活を送るものであり、図2にマッピングした場合、AttentionからShareまですべてをカバーする可能性を持っている。

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野村総合研究所 小林 慎和
著者プロフィール
野村総合研究所  小林 慎和
コンサルティング事業本部
情報・通信コンサルティング部 主任コンサルタント
工学博士
ネットビジネス事業者、通信事業者及び情報サービス事業者に対して事業戦略立案、マーケティング戦略立案、海外展開支援などのコンサルテーションに従事。その他に、ネットビジネスの動向について各種講演、執筆活動を行っている。共著書に「これから情報・通信市場で何が起こるのか」などがある。


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  Webビジネスの動向と今後
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