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Webビジネスの現在と未来

第1回:変化が加速するWebビジネス

著者:野村総合研究所  小林 慎和   2007/3/26
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注目すべきWebビジネスとは?

   Webビジネスの全体像について解説したが、この市場の中で今後注目すべきセグメントはどこなのであろうか。市場規模と成長性の大きさから有望領域と判断されるのは、Webビジネスにおいても同様である。

   図3は、Webビジネスを構成する各市場セグメントの2010年における市場規模と年平均成長率をマッピングしたものである。
Webビジネスの市場規模と成長性 出所:野村総合研究所
図3:Webビジネスの市場規模と成長性
出所:野村総合研究所

   もっとも市場規模が大きいドメインはEC市場である。今後5年間の平均成長率は10%強を維持し、2010年には市場規模が約6兆円となる。今回取り上げているWebビジネスの定義では、ECは全体の75%を占める巨大市場である。

   前述したように、ポータル事業者やSNS事業者には、消費者の行動プロセスすべてを押さえようとする動きがある。これはひとえに、この巨大なEC市場に事業展開し、新たな収益の柱を模索するためである。

   続いて規模が大きいセグメントはインターネット広告である。既存の広告市場は、主にテレビ、新聞、雑誌、ラジオの4つから構成されているが、インターネット広告は、すでにラジオと雑誌の市場規模を凌駕している。広告全体の市場規模としては約6兆円で横ばい傾向が続いているが、インターネット広告のみが急速に成長している。

   インターネットにおいても動画配信サービスが普及をはじめたことから、テレビにおける広告と、インターネット広告の垣根が縮小しつつある。テレビCM市場は長年一部の事業者によって独占され、新規参入が困難な市場であった。インターネットによって新たな広告市場が花開き、新規参入障壁が低下したことが現在の事業者乱立の状況の背景にある。

   市場規模の大きさは劣るものの成長性の高い市場がある。ブログやSNSをはじめとするコミュニケーションサービスと動画コンテンツ配信サービスである。この2つの市場の拡大は、まさにはじまったばかりといえる。

   なお、ここで取り上げた注目市場については、次回以降考察を加えていきたい。


加速する変化:Webビジネスは停止しない

   IT市場がドッグイヤーと呼ばれて久しい。犬が人間の7倍の速度で成長することから、IT市場の革新スピードを比喩してこう呼ばれている。インターネットが一般の家庭に普及をはじめてから今年で約10年が過ぎた。ドッグイヤーと呼ばれたそのスピードは、さらに加速している。

   図4には、去年から今年にかけて一般の人の間でも話題となった新興Webビジネスの成長スピードをマッピングしている。横軸は会員数(もしくは利用者数)が100万人を超えるまでに要した時間、縦軸は1日あたり閲覧数が1億PVを超えるまでに要した時間である。

   2006年9月14日に上場を果たしたミクシィは、運営するmixiの膨大な会員数と成長の速度が話題となった。しかしながら、図4にプロットしている新サービス群の中では、もっとも成長が遅い部類に属することとなる。

新興Webビジネスの拡大スピード 出所:各種公開情報より野村総合研究所作成
図4:新興Webビジネスの拡大スピード
出所:各種公開情報より野村総合研究所作成

※注1:
「ニコニコ動画」については、2007年3月現在会員数を制限しているため、コメント数が100万に達するまでの時間でプロットしている。また1億PVは未達成のままテストサービスが終了したため、図には反映していない。

   mixiおよびニコニコ動画は日本におけるPC向けサービス、モバゲータウンは日本における携帯電話向けサービス、YouTubeは海外サイトのPC向けサービスであり、同じ土俵に上がったサービスではないため、その成長速度を同列で厳密に比較することはできない。

   しかし、注目すべきはこれらのサービスの成長速度が新しく提供されたものほど高速化していることである。モバゲータウンに至っては、サービス開始からわずか159日で100万人の会員を獲得することに成功している。

   しかしながら、ただ安易にWebビジネスを展開すれば、すぐにこのように100万会員を獲得できるわけではない。華やかな成功サービスの裏側で、数多くのサービスが会員を獲得することなく消滅している。企業が新規事業を展開するためには、市場調査、フィージビリティスタディ、事業計画の策定を行うことで決裁判断を行うことが常である。

   Webビジネスの世界では、βサービスという言葉が象徴しているように、いわばサービスが未完成のまま市場へ投入される。これは提供事業者側からすると、ある種リスクを保有した形での展開となる。特に高いブランド価値を保有している企業ならばなおさらこのリスクをとることを躊躇するだろう。

   利用者のニーズは、時間と共に大きく変化する。Webビジネスにおける最大の成功要因は、「タイミング」である。Webビジネスの展開を考える企業は、意思決定プロセスをこのWebビジネス向けにカスタマイズする必要があるだろう。リスクを取り、多数のWebビジネスをβサービスで展開する事業ポートフォリオを組むことができなければ、勝者への道は険しく遠い。

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野村総合研究所 小林 慎和
著者プロフィール
野村総合研究所  小林 慎和
コンサルティング事業本部
情報・通信コンサルティング部 主任コンサルタント
工学博士
ネットビジネス事業者、通信事業者及び情報サービス事業者に対して事業戦略立案、マーケティング戦略立案、海外展開支援などのコンサルテーションに従事。その他に、ネットビジネスの動向について各種講演、執筆活動を行っている。共著書に「これから情報・通信市場で何が起こるのか」などがある。


INDEX
第1回:変化が加速するWebビジネス
  Webビジネスの動向と今後
  Webビジネスの全体像
注目すべきWebビジネスとは?