TOPプロジェクト管理> 加速する経営支援ツールの市場投入
プロジェクトの成功要因
プロジェクトを成功に導くキーファクター

第5回:経営にとって最大のリスクとは?

著者:日本総研ソリューションズ  坂井 司   2007/6/26
前のページ  1  2  3
加速する経営支援ツールの市場投入

   こうした戦略論も、従来は仰々しい紙面の上に「中期経営計画書」なるタイトルが付与され、「書物」として存在してきた。しかし、これからは違う。「中期経営計画」をまるごと「IT化」するのである。

   戦略目標から前述のKGI/KPIをブレイクダウンし、こうした各パラメータの達成状況をリアルタイムで表示する。これにより経営サイドは、戦略とのギャップを情報システムの画面を通じて確認し、本来必要なマネジメントを行うことが可能となるのである。

   さらにはこうしたKGI/KPIのパラメータを左右し、これを支える個別の「アクション」(広告投資や人材育成など)を、インフルエンスダイアグラムの手法やBSCの手法を用いて同様にIT化しておくことで、その是正措置でさえも画面を見ながら検討することが可能になる。

   こうしたツールは、「経営コックピット」などの単語で、昨今市場に随分投入されてきた。経営活動の最上位からこうしたIT技術を活用することは、組織全体の各プロセスに対して一層のIT化を推進する上でのいい意味でのトリガーと成り得る。先のようなスプレッドシートによる不要な転記を繰り返す方式で発生する「見えない人件費」も、こうしたツールを活用することで、本業あるいは自組織のコンピテンシー分野への人材の最適配置が実現できるのである。

   ところでこうしたツールを適切に活用するには、相応の戦略論を持ち、かつそれをシステムに展開していく、システムエンジニアのスキルが重要になってくる。つまり、システム開発の経験を持つ社員を「経営戦略を展開するシナリオライター」として育成し、適正に配置することが重要になってくる。そして、このような人材活用こそが、今後の「IT経営力」の向上につながるのである。

ITのリスクをマネジメントするのも「IT」

   先に例にあげたプロジェクト管理は、単体のプロジェクトを管理するものであるが、これらを複数束ねて、「Project Portfolio Management」「Program Management」と称するツール類も市場に展開されている。

   こうしたツールを活用することで、組織全体に関わるプロジェクトの推進状況をやはり同様に俯瞰することが可能であり、これによって組織に多大な影響を及ぼすプロジェクトの成否や、プロジェクト間の相互の依存性に伴う悪影響の連鎖などをマネジメントすることができるようになる。

   いうまでもなく、ITを活用するリスクを管理するのも「IT」なのである。ITに伴うリスクは、こうしたプロジェクトの実践以外にも、個人や企業情報の保護や、不正アクセス、ログ取得などの様々な対応が求められる。

   各組織においては、これらを「規定」なる文書によって整備し、組織を構成する社職員に対して、「C規定を新設したので、即日準拠願う」などの通達が出されることもあるだろう。だが、先に記した「紙面に展開しただけの中計経営計画」とまったく同様で、組織として対外に「こういう規定があります」というエビデンスの役割を果たしはするが、その実効性については何ら保証の限りではない。

   概して規定には、日本語ならではのあいまいな表現も多く、読み手の良識に依存した表現が用いられることも多い。事前の根回しや調整など、「八方を丸く収める」ことが、「優れた調整能力」と称されることすら今まではあった。しかしながら、あいまいさとITの世界は、ある意味共存しない。世間を賑わしている日本版SOX法への対応なども含め、あいまいなアプローチでは、最後の最後にその「正確性」や「適切性」を保証しきれなくなるである。

   規定のような文書のみによってITのリスクを低下するのはもはや現実的とは言い難い。規定の整備1つをとっても、これを「ITを用いて逸脱しない環境を作り得る」という設計が裏にあってこそ、真にその規定の実効性が担保されるのである。

   組織では、社会環境の変化などを踏まえ、今後も様々なリスクへの対応が迫られるであろう。しかしながら、IT社会が逆行することが考え難い以上、リスクに対してのみアナログな対応をしていて良いわけがなく、これを制するのも「ITの活用」しかないということを認識すべきだ。

   戦略展開の推進に際してITを使わないリスク、リスクマネジメントにITを使わないリスク、いずれも今後の経営にとっては、他組織との比較の中で、大きなディスアドバンテージにつながりかねない。

   ITは確かに手段ではあるが、これを徹底活用するための組織風土の醸成、すなわち「実効性の高いガバナンスの実現」についても、今一度、大きな戦略観から見直されてはいかがであろうか。

前のページ  1  2  3


株式会社日本総研ソリューションズ 坂井 司
著者プロフィール
株式会社日本総研ソリューションズ  坂井 司
技術本部 マネジャー
1989年 東京大学工学部原子力工学科卒業。同年 株式会社日本総合研究所に入社。以降、システム開発経験を踏まえ、企業のガバナンスに資するためのシステムコンサルティング活動等を展開。システムアナリスト。ITコーディネータ。「電子認証が日本を変える」(生産性出版)監修。


INDEX
第5回:経営にとって最大のリスクとは?
  経営レベルで差がつくIT非活用のリスク
  飛び交うスプレッドシート
加速する経営支援ツールの市場投入