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IT投資効果分析
ビジネスモデルの変革を伴うIT投資効果分析の考え方

第1回:IT投資の動向と可視化について

著者:オープンストリーム  赤穂 満   2007/5/2
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IT投資の戦略的取組みと評価の考え方

   IT投資において先行している企業とIT投資を行わない企業を比較した場合、企業価値の増大をもたらす戦略を立てられない企業が市場から取り残されているように思われる。これはIT戦略に関わるステークホルダ(投資家・経営者・情報システム・社員)が、表4のような問題提議を常に行いながら投資を検討しているかが論点となる。
  • IT投資を行う目的と施策は明確になっているか?
  • 経済環境や同業他社との比較でなく、自社はどのようなビジネスを展開したいのか?
  • 誰に対して企業価値を提供(デリバリー)したいのか?

表4:IT戦略に関わるステークホルダは問題を理解し、
常に問題提議しながら投資を検討しているか


IT投資に対して留意すべきポイント

   従来のような「どんぶり勘定」的あいまいな投資判断との決別を行うために、IT投資の目的に対して留意すべきポイントは下記2点が考えられる(表5)。

IT投資、情報化戦略の方向性が企業内プロセスの効率化推進のレベル
ビジネスパートナー、顧客とのコラボレーションビジネスによる新しい企業価値の向上が求められている中、投資の視点が内向きであるとともに、競合他社とは差別化された観点が欠落している。
TCO削減、人件費削減、在庫コスト削減の追求
全社レベルではなく、バリューチェーンの部分最適化にすぎない。

表5:IT投資の目的に対して留意すべきポイント

   これらは経済環境・市況だけを見た投資環境判断や同業他社との相対比較(多くの日本企業が行ってきた従来の投資判断手法)など、従来の投資効果算定と異なるものである。


IT投資に求められる視点

   これからのIT投資を行う際に求められる視点として表6のように考える。

ステークホルダ(株主/投資家、パートナー、顧客、社員/従業員)に対する説明義務
IT投資目的の明示、ビジネスの理解促進、情報の共有化など。
従来の利益の絶対額重視から資本効率型へ
マネジメントは株主から提供された資本を効率的に活用して利益を還元する責任義務がある。
定量的なIT投資評価手法の導入・実践
内外のステークホルダに対する正確な情報開示(ディスクロージャ)の必要性。
経営スタイルのグローバルスタンダード化、キャッシュフロー経営重視。

表6:IT投資を行う際に求められる視点


もう1つのIT投資評価の可視化

   「ビジネスモデルの変革を伴うIT投資」を評価する場合、IT構築の前後の評価だけでなく、IT投資を戦略的・業務的に効果を見える仕組みにすることが重要である。

  バックオフィスへのIT投資 業務効率へのIT投資 戦略的事業へのIT投資
目的 一般的な管理業務の基盤としてインフラを整備するような場合での投資 在庫削減、生産リードタイム向上、経費削減など定量化しやすいプロジェクト投資 製品戦略、営業戦略、IT効果の複合的な要素での相乗効果を狙う投資
対象 社内メール、ネットワーク、ホームページ構築など データウェアハウス、ビジネスアプリケーションなど 特定業務に関するものでなく全体最適化を狙うもの、ERP導入など
評価 他社導入動向などとの比較、ABC分析など ROI、ROE、ABC分析など KPI、財務分析、BSCなど

表7:ビジネスモデルの変革を伴うIT投資の仕組み

   単純なIT投資だけで効果を得るものは、「メリット/デメリット」によるROIの算定も容易である。しかし戦略的な取り組みが必要なものでは、戦略目標の達成に2〜3年の期間を要する。この場合、その期間で中間的な達成目標と投資効果の目標値を数値し、投資に関する施策を検討していく必要があるのだ。

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株式会社オープンストリーム  赤穂 満
著者プロフィール
株式会社オープンストリーム  赤穂 満
サービス推進兼SAXICE推進担当 統括ディレクタ
活動状況:これまでに、製品ライフサイクル、製品構成情報管理やビジネスモデルなどに関する解説記事、論文多数。
所属学会:日本設計工学会、経営情報学会、ビジネスモデル学会、正会員。


INDEX
第1回:IT投資の動向と可視化について
  IT投資と投資効果算定を考える
  IT投資の動向
IT投資の戦略的取組みと評価の考え方