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会社を強くするIT、弱くするIT
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第2回:競争力を高めるためのIT導入のステップとは?

著者:エンプレックス  藤田 勝利   2007/7/6
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「企業変革のステップ」はそのままIT導入ステップにあてはまる

   NTTデータ代表取締役社長で「社員力−ITに何が足りなかったか」(ダイヤモンド社刊)の著者でもある浜口友一氏は、その著書の中でこう述べている。

   「私は、ITを使った企業経営にもっとも必要なマネジメントスキルはリーダーシップだと考えています。ITを企業経営に使いこなせている企業と、多額の予算を使っているわりにはITに振りまわされてばかりいる企業の違いは、リーダーシップの差にあります」

   この本を読ませていただき、私はまさに「我が意を得たり」の心境だった。さらに、その浜口氏も懇意にされているというハーバードビジネススクールのJ・Pコッター名誉教授は「企業変革の8ステップ」の提唱者として知られている。

   専門はリーダーシップ理論であるが、彼は「ITとは変革であり、リーダーシップが不可欠」と断言する。彼の定義する変革ステップは、まさにIT導入の現場でも活用できるものなので、筆者も常に念頭においてお客様への提案に臨んでいる。
  1. 緊急課題という危機意識を高める
  2. 思いを共有した強力な変革推進チームを結成する
  3. ビジョンと戦略を生み出す
  4. 変革のためのビジョンを周知徹底する
  5. 社員やメンバーの自発を促す
  6. (大きなゴールをイメージしながら)短期的成果を確実に実現する
  7. 成果を活かし、信頼を生みながら、さらなる変革を推進する
  8. 新しい仕事のやり方を企業文化に定着させる

表3:企業変革の8ステップ

   この8プロセスは、各社において重点課題や順序が一部違うことがあるかもしれないが、変革に必要なプロセスを非常にわかりやすく表現していると思う。

   「現状のままではダメだ」という強烈な危機感が生まれ、ビジョンと戦略が共有され、社員が指示・命令ではなく自発的にプロジェクトに取り組み、小さい成果を繰り返しながらカルチャーを変えていく、そのようなプロセスが必要なのである。

   余談だが、あの瀕死の状態にあったIBMを再建したルイ・ガースナー氏もコッター教授の教え子であり、彼の改革アプローチを分析すると、やはり表3の変革ステップの考え方を参考にしていることがわかる。ガースナー氏が前任者の残したメモを見て、「すべて自分が実行した考えと同じだ。唯一、彼が変革リーダーシップと組織文化に言及していないこと以外は」と語った言葉はよく知られている。

   これまで再三述べてきた通り、ITを活かして戦略を実行し、ひいては組織文化まで変革していくというリーダーシップが大事ということがよくわかる。


IT導入時の最初で最大の落とし穴〜「危機感」の欠如

   特に、ITを導入されるリーダーやコンサルタントの方が最初に悩まれるのは、表3の1〜4のステップではないだろうか。中でも「危機感の醸成」が最初のステップにありながら、多くの企業がそこで早速つまずく光景をよく目にする。

   「危機感」という言葉はマネジメントの現場で多用されるが、その意味が正確に理解されているとは思えない。危機感とは何か。筆者は、「危機感の大きさ=『ありたい姿』−『現状』の差分の大きさ」と考えている(図1)。

危機感の大きさのイメージ
図1:危機感の大きさのイメージ

   よく、「最近の若い層に危機感がない」という言葉を聞くが、それは「ありたい姿(目的、目標)」と「現状の認識」の両方がズレているから発生する。たとえていえば、「部屋を綺麗にしたい」という思いがない人に、「よくこんなに部屋が散らかっていて平気だね!」と怒鳴ってもむなしいのと同じだ。実はITの導入の現場も、この危機感の共有がなされないまま、ダラダラと検討や導入が進むことが多いのである。

   そこで、リーダーは「ありたい姿」をメンバーと共有し、「現状」に対しても客観的に見つめる力を求められる。「ありたい姿」はリーダーの価値観や思いが色濃く反映される。ITに関わる意思決定は、企業の財務的な課題に比べると、さほど喫緊ではないと捉えられることも多い。

   しかし、「数字を超えた」視点で、社内に危機感を醸成できるリーダーこそが真のリーダーだと筆者は思う。

   高業績の企業は、かならず「使命」「価値観」「目標」と照らした「危機感」をリーダーが率先して語り、社員にも伝わっていることが多い。たとえ収益がでていても、雇用が安定していても、さらなる成長を目指して「このままではまずい、情報化時代にこのように変えていかなくては」と語れるITリーダーが不可欠だと思う。

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エンプレックス株式会社 藤田 勝利
著者プロフィール
エンプレックス株式会社  藤田 勝利
住友商事、アクセンチュア(当時アンダーセン・コンサルティング)を経て、米国クレアモント大学 P.F ドラッカー経営大学院にてマネジメント論を学ぶ(MBA with Honor)。専攻は経営戦略論ならびにリーダーシップ論。現在は、「経営とITの融合」を目指した多様なソリューションを提供するエンプレックスの事業開発担当 エグゼクティブマネージャーとして、各種新規事業立案、組織コンサルティング、中小・中堅企業向けIT化支援などを展開。大手・中小企業、政府官公庁に対する業務変革、組織変革、企業風土改革、マーケティング戦略立案などのコンサルティング実績多数。
共訳書「最強集団『ホット・グループ』奇跡の法則」(東洋経済新報社刊)


INDEX
第2回:競争力を高めるためのIT導入のステップとは?
  何のため、利益を出すためのITか〜「戦略」シナリオの必要性
「企業変革のステップ」はそのままIT導入ステップにあてはまる
  「データ」「情報」「ナレッジ」〜IT導入で何を変えたいのか?