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プロジェクト管理基盤
「プロジェクト管理基盤」整備のススメ〜対症療法に陥らないために〜

第3回:顧客と上司を説得する方法

著者:ウルシステムズ  本園 敏文   2007/8/24
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回避策その1「顧客の要求を揺さぶる」

   まず結論をいうと「スキル不足が問題であれば、そのスキルでも十分対応可能なレベルにまで、問題の難易度を下げる」ことが重要です。問題の難易度を下げることによって、そもそもの問題自体をなくしてしまうのです。

   具体的には「スキルを持つ個人がいない」と頭を抱える前に「本当にそのスキルが必要なのか」と、プロジェクトにおけるそのスキルの必要性を疑うところからはじまります。
低いスキルでも対応できるように、問題の難易度を下げる
図1:低いスキルでも対応できるように、問題の難易度を下げる

   「チームにスキルを持つ個人がいない」ということですが、顧客から与えられた条件を最初から「変更できないもの」として受け取ってはいけません。まずは「本当にその要求は必要なのか?」「本当にそのスキルは必要なのか?」と疑ってかかる必要があります。

   こうした疑り深さがなければ、重要性がかなり低いはずの機能の開発に頭を悩ませたり、大量のリソースを費やしたりすることになりかねません。

   まずはプロジェクトで必要とされているスキルについて再検討してみましょう。そのスキルは本当に必要でしょうか。「その技術を使ってやってくれ」というように、顧客の要求が実現手段に及んでいるものであれば、その要求の理由を調べてみましょう。

   その技術の採用が、目的に対して最適なものであるのかを他の代替技術との比較検討の上で決定していたり、その技術の他社での適用事例を十分に検討してあるなど、根拠がしっかりした上での要求であれば、「やはりこのプロジェクトで必要な技術」として対応できるスキルをもったメンバーは必要になるでしょう。

   しかし要求の出所が、単なる雑誌記事の受け売りのように深い根拠がないものであるならば、その技術の必要性はもう一度じっくり精査されるべきものです。

   例えば、顧客が「信頼性を確保するためにこの技術が必要だ」と主張するならば、以下のような点について徹底的に調査してみましょう。

  • 本当にそれで顧客が要求するような信頼性が確保されるのか
  • 同程度の信頼性を確保する手段は他にはないのか
  • 信頼性の確保と引き換えにどれだけのコストを支払うことになるのか
  • 運用面でこれまでになかった負荷がかかることはないか

表2:徹底的に調査すべきポイント

   このように、様々な側面から疑問を投げかけてみます。

   スキルの必要性を見直すための考え方の切り口は、上記コストや運用の切り口だけではありません。失敗リスクや費用対効果、期待される実質的な効果、効果に副作用が発生する可能性など、多様な視点から考えていきます。

   何が顧客の琴線に触れるかはケースバイケースですが、説得するポイントを絞って説得力のあるロジックを構築することができれば、ハードルを下げることは不可能ではありません。まずは、このハードルを下げる努力をしてみましょう。

   その技術が必須の理由として、顧客が何らかのシステム開発のポリシーを定めている場合も考えられます。そのポリシーが法律のように外部から押しつけられたものであれば変更は難しいでしょう。ただし顧客が独自に定めているものであれば、「説得力」によっては「例外」として認められる可能性は十分にあります。

制約条件は本当に制約条件か
図2:制約条件は本当に制約条件か

   ここで重要なのは可能性を可能性のままに放置しないということです。制約を撤廃するために、あるいは例外を認めてもらうために、具体的なアクションを起こさなければなりません。十分な客観的データを収集し、説得力のある根拠を構築し、見栄えのするプレゼン資料を作成し、重要なステークホルダーに根回しを行う。こういった活動を1段1段ステップを踏んで実施していく必要があります。

   しかし問題となっているスキルのレベルが、この方法ではお話にならないほど乖離している場合も多々あることでしょう。その場合はやはり「スキルを持つ個人」そのものを調達しなければ根本的な問題解決にはなりません。

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ウルシステムズ株式会社 本園 敏文
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  本園 敏文
シニアコンサルタント。既存のプロジェクト管理手法と知識体系をベースに、曖昧・不確実な世界から目に見える結果を引き出すための、トータルなナレッジの確立および現場へのフィードバックが目下の関心事。


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