ではどうすれば「よいシステム」ができるのでしょうか?
筆者が所属しているNTTデータでは、数年前から「システムを作る前工程(要求定義の工程、企画工程と呼んだりもします)をしっかりと実施しなければ『よいシステム』は作れない」という問題意識を持っています。そこで、その工程を支援するための「MOYA」という方法論を策定しました。
「MOYA」は株式会社NTTデータの登録商標です。
MOYAは要求工学のプロセスを基盤としつつ、要求定義品質を向上させるための多くのタスクや成果物から構成されています。要求定義品質を向上させるために、NTTデータでは以下の項目に着目しました。
- 業務を正しく理解し、記述すること(業務)
- 業務手順を改善すること(業務)
- 目的達成を業務レベルで検証すること(ゴール)
- 目的と解決すべき課題を確認すること(課題)
- 目的・手段について関係者が合意すること(関係者)
表2:要求定義の際に着目すべきポイント
MOYAでは以下のような全体像を持っており、上記の要求定義品質を向上させるためのタスクを実現しています(図1)。
図1:MOYAの全体像 (画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
MOYA自体はNTTデータによって開発されたものですが、MOYAの中身は、英国国立ランカスター大学 経営大学院 教授のピーター・チェックランド氏が提唱しているソフトシステムズ方法論(注1)や、ゴール指向分析などの様々な手法を統合したものとなっています。
※注1:
ソフトシステムズ方法論 Soft Systems Methodology(SSM)のこと。ピーター・チェックランド教授が開発。関係者間で目的を共有するために、認識の違いを明確にして合意を取ることを重視した方法論。MOYAはこの方法論のリッチピクチャやCATWOEなどを活用している
MOYAの全体像をみていただいたところで、今度はそれらのタスクによって構成されるMOYAのプロセスを確認してみます。
MOYAのプロセスは、大きく2つのSTEPからなっています(図2)。
図2:MOYAのプロセス (画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
一般に、要求を定義するプロセスは「要求を抽出し」「要求を分析、合意を形成し」「要求を仕様化し」「要求を確認する」となっています。
STEP1は「要求抽出」「要求分析・合意形成」にあたり、STEP2は「要求仕様化」「要求確認」にあたります。
最初のSTEP1では「様々なステークホルダが持っている様々な要求を、目に見えて理解できる形に構造化すること」、つまり要求を探索し、見える形・理解できる形に構造化することを目的としています。
次のSTEP2ではSTEP1で構造化した様々な要求を仕様化し、要件定義の工程に仕様を渡すことを目的としています。
今回の連載ではSTEP1「要求を目に見えて理解できる形に構造化する部分」にフォーカスして話を進めていきます。
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