— それで実際に挑戦されたのですか?
原田氏:CELFでもYLUGでも私は「検討します」と回答しました。そして実際に検討を行い、通るか通らないかはともかく挑戦することにしました。素直なんです(笑)。
ELCには1月31日に、OLSには2月14日に投稿を行いました。もともと想定していなかったわけですから、イベント自体の告知と募集要項の確認からはじめる必要がありました。特に時間の限られたOLSについては、祝日も関係なく文字通り「持てる時間のすべて」をそこに向けました。
投稿するアブストラクト(要約、抜粋のこと)は文字数こそ少ないのですが、その限られた情報量の中に何をどのように主張するかを考えるのは毎度のことながらとても難しい作業です。
— 参加可能かどうかの結果がわかったのはいつごろだったのでしょう?
原田氏:ELC、OLSとも本来の通知期限は2月末だったのですが両方とも遅れました。ELCの採用の連絡は3月7日です。通常のプレゼンテーションとしてエントリーしたのですが、プレゼンテーションとチュートリアルの両方での発表を勧められ、TOMOYO Linuxとして2つのセッションを持つことになりました。
OLSについてはさらに連絡が遅く、なんと4週間遅れの3月27日です。応募したのは論文としてなのですが、事務局からの採用通知ではBOFを勧められ、発表はBOFとして行いました。
OLS2007事務局からの採用通知メッセージ
Your proposal TOMOYO Linux has been accepted by the 2007 Linux Symposium Committee as a Bird of a Feather session. If originally submitted as a paper proposal you may decide not to adapt your topic to a BOFS and if you do please notify us ASAP.
We ask that you confirm that you will be hosting this BOFS by logging back into the website and submitting an abstract that will be used on the website and in the event programme. Please limit your abstract to two paragraphs covering the essence of your topic.
Please go to the link below and submit your abstract as soon as possible.
https://www.linuxsymposium.org/2007/summary.php
P.S. there are many reasons why a paper proposal might have been accepted as a BOFS instead including the general belief that an interactive discussion of the topic would be more useful.
後で振り返るとBOFを選択してよかったと思います。一般の論文発表ということであれば英語の論文を執筆する必要があるわけですが、おそらく……というか絶対その時間はとれませんでした。
両方の会議とも例年になく応募が多かったとのことで、審査が遅れたようです。それにしても、期限が過ぎても説明がなく、明確な期限の通知もありません。国内のイベントでは考えられないと思います。採用通知をもらった頃には「もうどちらでもいい」という気持ちになっていましたし、会社でも「どうも駄目だったようです」と報告していました。
— 審査のフローなどは公開されているのですか?
原田氏:同じ国際会議であっても、投稿の規約や手順はまったく異なります。OLSについては、文字数などの制限や審査の進行について非常に細かく説明されています。投稿されたアブストラクトを公平に審査するため、投稿者の氏名や所属がわからないような仕組みになっているようです。OLSのCall For Paperはまだ掲載されていますし、昨年9月に開催されたOSDL Japan Linux SymposiumでのCraig Ross氏の講演資料でとても詳しく紹介されています。
— 資料の準備には苦労されましたか?
原田氏:TOMOYO Linuxについては、2003年から3年連続でLinux Conferenceに発表しましたし、JNSA主催のネットワークセキュリティフォーラム2003や愛知県立大学で行われた情報学ワークショップ2005では優秀論文賞をいただきました。しかし海外への会議にも投稿したいという気持ちはずっとあったものの投稿しそびれており、英語の論文や説明資料は作成していませんでした。
そこで、ELCの発表では、TOMOYO Linuxとしての最初の世界に向けた情報発信ということで、そのあとのOLSでの利用も意識しながら資料を作成しました。メインのプレゼンテーションについては、私と半田氏が第1部概要、第2部技術詳細という形で分担し、チュートリアルについては桝本氏と武田氏にシナリオ/進行/環境構築を任せました。それぞれが独立して作業することにより、短い準備期間を最大限に活用するためです。
講演資料の副題「A Lightweight and Manageable Security System for PC and Embedded Linux(PCと組み込みLinuxのための軽量で管理しやすいセキュリティシステム)」は、CELFのTim Bird氏が提案してくれたものです。この言葉はTOMOYO Linuxをよく表しており、とても気にいっています。
図3:ELC2007プレゼンテーション資料 (画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
ELCの発表を終えて日本に戻ったのが4月21日で、OLSの発表は6月18日です。ELCから戻るまではELCに全力投球しており、OLSの準備は渡航を含めて一切できていません。休む間もなく、OLSでの発表について検討を開始しました。
— OLSでの発表と資料作成については何か計画をたてられましたか?
原田氏:OLSでの発表にあたっては、事前に作戦を考えていました。それは、BOFの前にLKMLにTOMOYO Linuxを投稿することです。LKMLは、Linuxカーネルの本体への拡張を提案し、議論する場であり、OLSはLinuxの開発会議でありいわば檜舞台です。LKMLに投稿した内容をOLSで議論したい、そう考えたわけです。
LKMLに投稿するためには、TOMOYO Linuxの説明を用意しておくことも必要だと考えました。やりとりはメールで行うにしても、技術的な内容の詳細について説明を作っておこうと思ったわけです。そこで、英語でWikiのページを作りはじめました。
こうして従来の方針ではなかった「メインライン化への道」を進みはじめたTOMOYO Linux。その挑戦の中で直面する問題や解決すべき課題とは。日本発のセキュアOS、TOMOYO Linuxの挑戦は続く!
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