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テクノロジからみたSaaSの経済学
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第2回:すべてがSaaSに置き換わるのか

著者:ラクラス  北原 佳郎   2007/10/30
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SaaSはどこまで広がるのか

   最後に、ここまで述べてきたビジネスモデルの特徴や制約条件から、SaaS発展の方向性について予測してみたい。

SaaSは付加価値創出よりも費用削減に向いている

   企業活動は、付加価値創出(Make Value)と費用削減(Save Cost)という両輪によって前へと進む。Make Valueとは、他社から自社を際立たせる差別化要因の創出を示す。「QCDS(Quality、Cost、Delivery、Service)」の各要素において、「他社とは違う」ことに意味がある分野なのだ。

   しかしながらSaaSは、「マルチテナントにより規模の経済を追及する」ことを特徴とするサービスである。規模の経済を追求する目的は、Save Costである。経営資源を消費しない、稼動を確認するまでキャッシュアウトがない、月極め料金でキャンセル可能といった特徴も、費用削減を求める企業にとって高い価値があろう。

   つまりSaaSとはその本質において、付加価値創出よりむしろ費用削減に適合したソフトウェアの提供形態なのだ。企業の競争力の源泉となるソフトウェアについては、自社開発あるいは大型パッケージソフトのカスタマイズといった提供形態が、今後とも主流でありつづける。「他社とは違う」ことに価値がある分野にまでSaaSが広がるのは、次の発展段階まで待つことになるだろう。

   またSaaSはASPを駆逐するものではない。この両者はいずれもSaver Based Computingを具体化したものなのだ。ユーザごとの要求の差が少ないアプリケーションには、今後ともテンプレートを活用したASPが利用されていくだろう。

ミッションクリティカルな分野には向かない

   いうまでもないが、24時間365日動き続けることを要求されるミッションクリティカルな分野にSaaSは向かない。たとえ24時間365日動き続ける必要はないとしても、SaaSの場合、システムを停止させる権限はベンダーの側にある。どれほど柔軟なカスタマイズができようと、ユーザ側企業の都合が第一優先となるアプリケーションにSaaSは向かない。

   一方、それ以外の分野においては、自社保有とSaaSとではどちらの可用性が高いかを冷静に見極める必要がある。回線や電源を多重化し、バックアップ機材を備え、ログ管理、アクセス制御、データバックアップを業務として確実に遂行してくれるSaaSベンダーを選んだのであれば、そのサービスは自社保有よりもはるかに安定したものになるはずだ。


インターネットならではの特徴を生かした分野

   B2Cの世界においては、インターネットならではの特徴を生かしたアプリケーションが次々に登場してきた。B2Bの分野においても、今後同じような流れが出てくる。創意工夫をこらしたSaaSならではのサービスが登場するはずである。

   たとえばパッケージのワークフローソフトであれば、その企業の内部のデータの動きしか処理できない。しかし、インターネット上にサーバが置かれているSaaSでは子会社から親会社へ、さらに社外へとデータを動かすことができる企業間ワークフローを提供することが可能だ。

   あるいは、Eコマースサイト構築をSaaSとして提供し、そこで発生した発注情報から在庫引当・出荷管理を行い、さらに販売管理から会計システムへと連携させようとするサービスも登場している。ユーザは、自社でいちいち作りこむよりも手間がかからず、ポータルサイトが提供するショッピングサイトより遥かに魅力的な、自社ならではテイストをもったWebサイトを構築できる。


まとめ

   これまで、SaaSを巡る議論の多くは、インターネットを通信手段として使うことにしか光を当ててこなかった。しかし今後は、「サーバがインターネット上にあるからこそ可能になるB2Bサービス」が多数考案されてくるに違いない。私はそこにSaaS発展の可能性をみている。

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ラクラス株式会社 北原 佳郎
著者プロフィール
ラクラス株式会社  北原 佳郎
代表取締役社長
人事情報データベースとWebワークフローソフトをユーザごとにカスタマイズしたSaaSで提供し、さらに要望に応じて日常人事業務のビジネスプロセスアウトソーシングも提供するという、日本初の人事SaaS+BPOサービス「ラクラスイオ」を提供している。著書に『「ヒト」を生かすアウトソーシング』『SaaSはASPを超えた』(いずれも(株)ファーストプレス)がある。


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第2回:すべてがSaaSに置き換わるのか
  カスタマイズ能力に磨きをかけるSaaSベンダー
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