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【新・言語進化論】言語選択の分かれ道

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第2回:自然言語処理にC++を選んだワケ

著者:Jurabi 岡 俊行

公開日:2007/11/8(木)

自然言語処理を実装するプログラミング言語に求められる特性

まず辞書を用意する。辞書は日本語として可能な単語(形態素)をできるかぎり網羅したものである。一種のデータベースであるが、数十万語レベルの登録がある中から適切な単語を高速に検索するために、特別なインデックス構造を持っている。

たとえば1ページ目で紹介したデモサイト(http://ayu.jurabi.org/)のプログラムでは、日本語の文字コードの特性に合わせた細かいビット演算を用いるインデックス構造を採用している(この構造と検索アルゴリズムは「パトリシア」と呼ばれている。女の子の名前ではないので念のため)。

さらに日本語の場合は、語尾変化のバリエーションが非常に多い。中学か高校あたりで習う、未然形だの連体形だのカ行変格活用だの、を思い出していただければよいかと思う。そこでまずは、辞書には単語の中で変化しない部分(「語幹」と呼ばれる)だけを登録しておき、語幹部分を辞書引きした後、可能な語尾変化のパターンをあてはめて原文と一致するかどうかをチェックする処理が必要になる。

例として「この先生のみとめる人物」という文を辞書引きしてみよう。先頭のほうから、「こ」「この」「この先」「先生」「生」「生の」「の」「のみ」「みとめる」「とめる」「人物」「人」「物」などが単語として得られる。

自然言語処理するのに必要な要素
自然言語処理するのに必要な要素
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

この後は、単語の位置関係と品詞などの情報から接続可能な組み合わせだけをリストアップし、単語の出現頻度や組み合わせの妥当性などの統計情報を使って、解のスコアを計算する。最終的にスコアの一番良い解が出力される。おそらく今回の場合では「この/先生/の/みとめる/人物」となるだろう。

このように、自然言語処理では「大量のデータを扱う」「組み合わせの数が多い(工夫しないと爆発する)」「統計的な計算量が多い」という3つの特徴を持っている。

したがって、自然言語処理を実装するプログラミング言語に求められる特性は、まずコードの実行速度と、場合によっては生のメモリにも触れるほど細かなチューニングが可能な柔軟性であろう。

また、形態素解析は自然言語をあつかうさまざまな製品やサービスの部品として使われることが多いので、各種プラットフォームやプログラミング言語から呼び出せるようにライブラリ化できるとよい。さらには製品を素早くリリースするために生産性の高さも必要だ。保守性の観点からは、数多くの開発者によって使用されていることが望ましい。

これらの理由から、自然言語処理に用いるプログラミング言語の選択の規準として、「実行速度」「チューニング」「ライブラリ化」「生産性」「普及度」ができあがる。

では、次にC++、Java、Perl、Rubyから、なぜ「C++」を選択したのかを解説しよう。 次のページ




株式会社Jurabi 岡 俊行
著者プロフィール
株式会社Jurabi 岡 俊行
CTO
コンシューマ系の機械翻訳ソフトの開発に10年ほど携わった後、活動の場を広げるべく、現Jurabiの設立に参加。自然言語処理やオープンソース開発などの技術指向をコアとしつつも、上流から下流までを見通せる高付加価値な技術者の育成を目指す。自身はC++の泥臭さとLispのシンプルな奥深さを愛する言語好き。
http://www.jurabi.jp/


INDEX
第2回:自然言語処理にC++を選んだワケ
  自然言語処理とは
自然言語処理を実装するプログラミング言語に求められる特性
  C++、Java、Perl、Rubyの比較評価