背筋の凍る、思い出したくもない話
陰惨で目を背け、耳をふさぎたくなる怪談話がある。日常に突然入り込んでくる「恐怖」は、できれば聞きたくないことだろう。しかし「そのような恐怖がいつかくるかもしれない」という心構えをしておくことで、実際に遭遇した際に、冷静に対処できるはずだ。
それが背筋が凍り、思い出すのが怖い話であればあるほど、同様の状況下で「思い出してしまう」話となる。この「怖い話」に、後述するような「教訓」が付属することで、思い出されることに意味がでてくる。
「…彼は帰らぬ人となった」では駄目
IT業界で仕事をしていると「笑い話」としてのバグ話をよく耳にする。「アレのときは納期も迫ってたし、3日徹夜で…」と、武勇伝として語られるような類のものだ。
こういったバグ話に共通するのは「前にいた会社で聞いた話」であったり「昔、まだ経験が浅かったころ」など、今の自分とは異なる空間・時間で起こったものがほとんどだ。もちろん、今現在進行形だとすればとても話をしている余裕はないだろうし、人間は自分に都合の悪いことは口をつぐんでしまいがちになる。
しかし本当に役立つ体験談とは、背筋が凍るほどクリティカルな案件に関するものであり、自身が直面し、それを乗り切った経験談なのだ。いってみれば、有益なバグ話は、有益な怪談話と同じ構図を持っている。
都市伝説の口裂け女を例にするならば、口裂け女という存在があり、彼女がどのような来歴を持ち、どのような行動をし、対策しなければどんな災いが降りかかるのかを明らかにする。そして、どうすれば口裂け女から逃げおおせられるかこそが、「口裂け女」という都市伝説の重要なポイントなのである。
これをバグに置き換えるとすれば、バグという存在があり、なぜそのバグが発生し、どんな被害が起こるのか、そして解消するにはどうするかまでを明らかにしてこそ、有益なバグ話になる。 次のページ