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組み込み分野の動向を変化させるオープンソース |
携帯電話、デジタル家電、カーナビ、通信基地局にも Linuxが浸透 普及したオープンソースシステムによる開発環境の統合も進む
著者:塩田 紳二 2005/10/12
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組み込み分野におけるオープンソースのメリット
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組み込み機器に多く採用されているLinuxなどでは、すでに実績のあるネットワークモジュール、たとえばTCP/IPのプロトコルスタックやその上のアプリケーションなどがあることがメリットだという。特に最近では、家電など多くの機器がインターネット接続を可能にしているため、それが簡単に行えることが重要になっている。また、他のコマーシャル系の組み込みOSにもこうしたプロトコルスタックなどが用意されているが、Linuxでは、すでにPC用として実績がある点が有利だという。とりあえず仕様どおりに動作するソフトウェアなら、一定以上の技術力があれば作ることは可能だが、バグの程度や相互運用性といった点は、長い時間をかけて検証していかねばならない項目である。これらがすでにクリアされていること、それに加えて、ソースコードレベルでの検証が利用者側で容易にできるというオープンソースのメリットが、ここでは採用に有利に働いていると言える。
また、組み込み機器には、台数は少ないものの、高額で、長期にわたるサポートが必要な機器がある。このような場合、ベンダーの事情で利用継続が困難になるといった問題がいままではあった。ベンダーが倒産してしまったり、他社に買収されたりといったことは容易に起こりうる問題である。
また、こうした機器の中には、極めて短時間に障害を解消しなければならないものがある。そのような場合、ソフトウェア自体が非オープンソースでブラックボックスであったり、ソースコードの開示契約はあるもののユーザー側での修正が認められていないのでは、問題が発生することがある。多くの開発メーカーは、こうした点をオープンソースのメリットと理解しているようだ。
コストも重要なポイントだが、必ずしも組み込み機器自体のコストだけが問題となるわけではない。たとえば、製品化が未定の段階での試作、あるいは大学などでの実習といった、開発自体が利益に直結しない分野での利用は、有償やライセンス契約が必要なコマーシャル製品の利用が困難なことが多い。組み込み関連の教育分野でのオープンソースの普及は、オープンソースで育った技術者を産み、さらにオープンソースを普及させるきっかけとなると思われる。
また、コストや契約にかかわらず、誰でもがアクセスできるオープンソースでは、環境の整備や、さまざまなソフトウェアの流通、共有化を促進する。
ただし、組み込み系のオープンソース利用にまったく問題がないわけではない。たとえば、GPL違反を調査しているgpl-violations.orgのサイトには、組み込み機器にGPLソフトウェアを使いながらGPLで定めたソースコードの公開などを行わなかった企業への訴訟や和解などについてのニュースが掲載されている。これがソフトウェアベンダーからシステムなどを購入したとしても、ベンダーがGPL違反を行えば、それを利用した製品にも影響が及ぶ。さらにこれらが組み込まれたボードを部品として購入し、製品化した場合などにもGPLとの関係が生じる。オープンソースが広く利用されると、組み込み系では自分ではオープンソースを利用しているつもりはなくともこうした問題に無関係ではいられなくなる。
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オープンソースベンダーの動向
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組み込み分野に普及し始めたオープンソースだが、これを扱うソフトウェアベンダーは、まだそれほど多くない。というのは、前述のように、単にソフトウェアを提供するだけでなく、オープンソースコミュニティのメンバーとしての活動といった側面も必要になるからである。そのためには、開発したコードのコミュニティへのフィードバックや情報提供といった活動が必要である。
また、顧客となるメーカーに対しては、オープンソースソフトウェアの著作権など法的な情報を提供したり、ユーザーが公開できないモジュールをGPLと分離させる方法の提供など、さまざまな面でのコンサルテーションが必要であるため、簡単には参入できない側面があるようだ。
Linux系でいえば、モンタビスタやリネオなどが組み込み系ベンダーとして活動している。その他にもLinuxを組み込み用として提供しているベンダーはあるようだが、多くの場合、実績があまり表に出てこないこともあって、評価が定まらない状態である。実際には、顧客がいたとしても、組み込み用にオープンソースを利用していることの公開を望まない企業もあり、一般には、実体が分かりにくいからである。
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組み込み分野の業界団体
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Linuxに関しては、組み込み系に関しての業界団体がある。国内では、組み込み系関連企業の集まる日本エンベデッド・リナックス・コンソーシアム(Emblix)(注1)、もうひとつは、ソニー、松下などの家電分野でLinuxを使う企業が集まるCELF(CE Linux Forum)(注2)である。その他、Linux関連の団体の中で組み込み関連の部会などを持つところもあるようだ。
海外では、米国を中心としたEmbedded Linux Consortium(ELC)(注3)が活動している。
Emblixは、「さまざまな企業・大学・研究所・個人から共同で知恵を出し合って解決に取り組み、『組み込みLinux』に関するさまざまな情報を提供することにより、『組込みLinux』の普及、浸透を図ること」を目的とした団体で、ワーキンググループによる組み込みLinux周辺技術の標準化や、組み込みLinuxの普及、浸透のための活動などを行う。メンバーには、大学やベンダー、メーカー、半導体メーカーなどが参加している。
これに対してCELFは、松下とソニーが家電用のLinuxの共同開発が発端で、家電メーカーが中心に集まる団体である。オープンソースプロジェクトコミュニティとの連携や開発成果の相互利用などを目的とする。現在では、米国カルフォルニア州のNPO法人となっている。一時、家電向けLinuxの仕様策定団体と誤解されたようだが、現状、家電向けのLinux仕様を策定する計画はないという。
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書籍紹介 「Linuxオープンソース白書2006 新たな産業競争力を生む、オープンソース時代の幕開け」
※本連載はインプレスより発行の書籍「Linuxオープンソース白書2006」(ThinkIT監修)から一部抜粋し、転載したものです。
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