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UML導入に関する考察
UML導入に関する考察

第2回:UML導入事例
著者:野村総合研究所  田中 達雄   2005/6/30
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株式会社明治座

   明治座では、2003年12月20日に稼動を開始した「ネット予約 "席とりくん"」の開発でUMLを導入している。UMLの導入目的には、オブジェクト指向言語であるJavaとの親和性ならびに保守性の確保を理由に挙げている。ただし、インターネット上で座席予約を実現することは初めての試みであったため、業務分析については10年以上の経験を持つDOAを採用している。

   業務分析は慣れ親しんだDOA(業務フロー図やE-R図など)で行い、システム分析やシステム設計といった実装に近いフェーズで、Javaとの親和性を意識しUML(ユースケース図、クラス図など)を採用している。

   当初のUML導入目的である「Javaとの親和性」については非常に満足しているが、保守性については稼動開始からそれほど日数も経っていないので効果は今のところ見えていないとのこと。

   UML導入のメリットのひとつとしてモデルによる可読性が挙げられるが、他人が書いたUMLドキュメントを元にどの程度仕様が理解され、保守されるかについては残念ながら答えが聞けなかった。


サントリー株式会社

   サントリーでは、ビジネスの多様化や変化の早さに対応すべく、2001年頃から開発生産性と柔軟性の向上を目指し、J2EEによるコンポーネント開発に取り組み始めている。業務ロジックをコンポーネント化し、再利用していくことで開発生産性や柔軟性を高めようとするものである。

   コンポーネント化にあたっては、会社毎の固有機能と共通機能を切り分けてシステムを構築すると同時に、アプリケーション間の共通機能をコンポーネント化している(図1)。

従来型開発とコンポーネント化開発
図1:従来型開発とコンポーネント化開発
出所)「Rational Educational Seminar 2003 成功事例特集」を参考に野村総合研究所作成


   また個々に開発したシステム間は標準的な接続方法(ここではEAI)でトランザクション単位に連携し、システムの独立性を確保するよう工夫している(図2)。

システム間連携のイメージ
図2:システム間連携のイメージ
出所)「Rational Educational Seminar 2003 成功事例特集」を参考に野村総合研究所作成


   2004年9月時点の実績で、総EJBクラス数は約1,500個、総EJBコンポーネントJAR数は507個、再利用の可能性を秘めたコンポーネントは370個、その内108がコンポーネントビレッジに公開され再利用の実績があるとのこと。また、既存コンポーネントを使って組み立てるシステムを利用することで、共通コンポーネント適用率を64%にまで高めている。

   このようにコンポーネント化に成功したサントリーであるが、標準化の重要性を強く説いている。標準化すべき対象には以下の2つを挙げている。

1. 方法論
  • 設計思想/ポリシー
  • 工程とレビュー
  • 評価尺度
2. コンポーネント
  • コンポーネントの粒度
  • 再利用プロセス
  • Utility
  • サンプル

   UMLは「方法論」、「コンポーネント」どちらにも関与している。

   「方法論」の設計思想/ポリシーでは、集合研修「UML実践講習 "虎の穴" 4日間の合宿」「マネージャ向けオブジェクト指向研修 "猛虎会" 2日間の合宿」の中で従来型の開発方法の考え方を改めるための学習時に利用されている。また工程とレビューでは、実際のプロジェクトの標準設計ドキュメントとして採用されている。

   「コンポーネント」では、再利用するコンポーネントを公開する際の解説用ドキュメントとして利用されている。

   開発生産性と柔軟性の向上という目標に対し、コンポーネント化することでそれを実現している。UMLやオブジェクト指向開発方法論を適用した数少ない事例であることは確かであるが、UMLやオブジェクト指向開発方法論を適用したから成功した事例とは言えない。しかし、コンポーネント化を実現するために必要な道具であったことは確かである。

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野村総合研究所
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。


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