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本格化するシステム運用マネジメント強化の取り組み
本格化するシステム運用マネジメント強化の取り組み

第1回:システム運用マネジメントの問題

著者:野村総合研究所  浦松 博介   2005/06/15
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管理・統制ができない企業の増加

   1990年代の後半以降、多く企業はシステム運用に関する業務をITコストの削減対象と捉えて、人員の削減やアウトソース化、企画・開発へのリソースシフトなどを行ってきた。しかしこのようなシステム運用の効率化の取り組みの結果、現場では表4に示す様々な問題が進み、情報システムの運用の管理・統制が組織として実践できなくなってしまったのが現状である。
  • 業務ノウハウの属人化
  • 管理不在のアウトソース化
  • 技術スキルの分散化・断片化
  • 運用人材のモチベーションの低下

表4:運用現場の問題点

   事実、コンサルティングで現場に接し、情報システム運用のマネジメント業務が形骸化してしまっている理由について聞くと、「長期間にわたる効率化の結果」と話す現場管理職は多い。

   では、情報システムの運用のマネジメント業務が形骸化してしまった要因について、もう少し詳細に解説していく。


偏ったリソース配分

   経営・事業環境が大きく変化し、競争激化などの理由から新規事業の立ち上げ、経営の意思決定を支援するための新しいシステムの構築、既存事業の収益力強化のためのシステムの改修など、情報システムは企業内に広く取り込まれるようになった。

   このように情報システムが企業内で急速に拡大するのに対して、情報システムを効率的に活用する仕組みの整備や、情報化を推進する人材の教育が遅れていた。そして多くの企業が、情報システム部門を中心として情報化を運営する仕組みの再整備や、経営課題に直結した全社プロジェクトの旗振りや実践が可能な人材の育成をはかった。

   このような全社レベルで情報化の企画・開発を強化する動きによって、情報システム部門の中でも特に企画・開発部門へ優先的にリソース配分が行われるようになり、情報システムの運用部門が置き去りにされてしまった。その結果として、情報システムの運用部門では人材の固定化や、ノウハウの属人化が進んでしまった。


アウトソースによる複雑化

   また時を同じくして、電子政府・電子自治体などの政府の取り組みによって情報サービス産業が急激に成長を遂げ、経営資源の有効活用のための手段としてアウトソースが広く認知されるようになる。

   しかし、アウトソースサービスを利用する側の企業において、情報システムの運用に対する重要性の認識が不十分であったり、利用する目的の組織内部での共有が不十分であったり、アウトソースサービス提供者の不十分な説明責任などの様々な要因によって、アウトソースサービスの利点を十分に享受できず、結果として運用部門の業務負荷が高くなってしまっている。

   また、委託する業務や情報システムに関する管理の在り方について議論が成熟しないうちに情報システムや業務(事後処理など)のアウトソース(マルチソース)化が進むことによって、管理業務の煩雑化(管理業務の不認知若しくは管理責任のなすりつけ合い)が起こってしまう。同時に、サービスを提供するためのプロセスがインソースとアウトソースが継ぎ接ぎで複雑化してしまい、作業ミスや重要事項の伝達ミスが発生する可能性が高くなっている。


システム運用部隊の技術拡散

   IT革命で様々なオープン系技術が登場した事によって、企業では情報システムを「いち早く」、「同時並行的もしくは段階的に」、「比較的安価で」構築できるようになった。これにより経営課題の解決の手段として、情報システムが企業活動の中でより一層活用されるようになる。

   現在では新規事業の立ち上げや経営の意思決定の局面でも情報システムが活用され、新しい情報技術を活用したシステムが次々と構築されるようになっている。

   しかしその一方で、新しい情報技術を活用し、次々と情報システムを構築してきたことにより、「情報システムの構造の複雑化」や「情報システム部門が情報技術を組織的に習得する機会の阻害」など、情報システム運営面での課題も同時に生み出す結果となった。


基盤設計の標準化・適正調達の欠如が大きな要因

   オープン系技術を活用した情報システムを構築する際には、自社システムの全体構造を定義し、自社にとって最適な情報技術を選択すること(=情報システムの構造と基盤の標準化)が重要となるが、構造定義や標準化が不十分なままで情報システムの構築を繰り返してしまっている企業は多い。

   最近では、情報システムの構築に際して「オープンな」調達方式を活用する企業が増えているが、ここでも自社での構造定義や技術標準が不十分なまま調達が行われてしまっているために、システムを構築する度に新しい技術標準が作られるといった事象が多く見られる。

   これら構造定義や標準化の取り組みが機能しないことで、情報システム全体が肥大化、複雑化してしまっている。

   更には情報システムの技術も調達単位で異なってしまっているため、情報システムの維持を行うために必要な技術が分散してしまい、維持管理コストの増大や品質の維持管理が困難な状態になっている。それと同時に、開発部門と比較して運用部門の要員が少ないこともあり、情報システム稼働のタイミングで運用部門への技術移転がなかなか進まず、技術ノウハウの断片化という現象を巻き起こしてしまっている企業も少なくない。

   その結果、本番稼働時に大規模障害が多発したり、障害発生時の復旧作業に時間を要してしまったりといった事象までもが発生しており、これらの対応に更なる労力とコストを費やす結果となっている。

運用部門のモチベーション低下

   情報システムの運用部門はシステムの本番稼働後の一切の稼働責任を任されていることが多い。障害発生時には陣頭指揮を執って顧客やエンドユーザとの調整をはかることも多いため、従前より情報システムの障害(品質)に対する感度は高い。また、日々の作業の確実な実行(=オペレーションミスの撲滅)や効率化に向けたTQC的な発想による地道な取り組みを続けてきている部門であることが多い。

   日々の作業をミス無く着実に実行する人材を求めながらも、運用関連の技術の進歩によるオペレーション業務の自動化・簡素化などにも取り組み、業務ノウハウや技術移転を行いながら人員削減と組織的な運営のバランスをとってきた。しかし、1990年代後半からのITコスト削減やアウトソース化の推進などの長期間にわたる効率化の取り組みを進めた結果、情報システムの稼働責任を担った組織的な運営が困難な状態となってしまった。

   更にシステムの複雑化や技術ノウハウの分散化・断片化による障害対応負荷の増大なども相まって、運用要員は日々の運用業務を確実にこなすことだけに精一杯となり、モチベーションの低下も著しい状況にある。

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野村総合研究所株式会社 浦松 博介
著者プロフィール
野村総合研究所株式会社  浦松 博介
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 産業ITマネジメントコンサルティング部 システムマネジメントグループマネージャ。入社後、アプリケーションエンジニアや海外留学などを経て現職。現在はシステムコンサルタントとして情報システムの運用改革や調達支援、プロジェクトマネジメント支援などの業務に携わる。


INDEX
第1回:システム運用マネジメントの問題
  システムコンサルティングの最近の傾向
管理・統制ができない企業の増加
  急増するシステム運用改善の取り組み