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IT戦略と人材マネジメント〜IT効果による人材革命
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第2回:日本と欧米の人材マネジメント
著者:日本ピープルソフト  小河原 直樹   2005/8/11
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成果主義の実態

   終身雇用と年功序列の下で、日本企業の最大のコア・コンピタンスは企業文化の共有であった。従業員の価値は勤続年数で決まっていた。日本の人事政策も、勤続年数に応じて、従業員が恩恵をこうむるしくみになっていた。給与は勤続年数に応じて高くなっていく。

   勤続年数に応じた会社の住宅融資制度や教育融資制度により、従業員は自分や家族の将来設計を立てていった。会社の業績が良くなっていけば、自分達の人生も必ず良くなると、従業員は信じていた。企業戦略と従業員の行動が、終身雇用と年功序列の制度で見事に一致していた。

   しかし、長引く不況とグローバル化の影響により、日本型経営の根幹である「終身雇用と年功序列の運用」が機能しないと、多くの経営者は判断するようになってきた。経営不振を理由に工場は閉鎖され、中高年を中心にリストラの嵐が吹き荒れた。その結果、1990年代から、多くの企業が日本型人事政策に代わるものとして、「成果主義」を導入した(表1)。成果主義のコンセプトは、「仕事でどのような成果を上げることができたか」を重要視する人事制度である。

日付企業名内容
2004年1月サントリー管理職層に仕事の責任の重さに基づく「役割等級制度」を導入
2004年1月富士重工業管理職と事務職・技術系の中堅社員以上に年齢・勤続で上昇する賃金を廃止
2004年2月日産自動車一般社員を対象に能力や業績で支給額が決まる成果主義型の賃金体系
2004年3月丸紅部長クラスに仕事の役割や責任の軽重に応じて賃金を決める「役割給」導入
2004年4月三菱電機管理職を除く2万人の一般社員を対象に成果主義を取り入れた賃金体系に移行
2004年4月松下電器産業30歳前後の課長補佐、係長クラスの社員23,000人の年功的賃金体系を変更
2004年6月大分銀行年功的な定昇を廃止
2004年7月阪急電鉄課長以上の管理職に加え、係長以下の総合職に年棒制を導入
2004年8月日本テレコム600人の営業担当者を対象に、賞与の「個人業績連動制」を導入
2004年8月ウッドワン管理職と営業や製造部門の専門職を対象に年棒制を導入

表1:成果主義の実態
出典:溝上憲文 「隣の成果主義」

   図4は日本能率協会が発表した成果主義導入について、全国の上場企業及び非上場企業の経営者に対する調査報告である。これによると、全体の83.3%の企業が、人事制度として成果主義を導入いている。その目的として、社員の意識改革や、年功制度の脱却を上げている。しかし、70%以上の企業が現行の成果主義に満足した結果を得られず、修正を検討している。

成果主義人事制度導入の調査結果1
図4:成果主義人事制度導入の調査結果1
出典:日本能率協会「経営課題に関する意識調査及び成果主義に関する調査」

   労政行政研究所の発表も同様の結果である(図5)全体の70.1%が成果主義を導入している。そのうち、自社の成果主義人事制度に問題ありとの回答が、経営側では88.2%、労働側では93.8%に達した。

成果主義人事制度導入の調査結果2
図5:成果主義人事制度導入の調査結果2
出典:労政行政研究所(2005年3月)

   成果主義の失敗事例はマスコミでも数多く取り上げられいている。成果主義導入によって、6月の手取額が22,000円になり、東京地裁に訴えられらケースやベストセラーになった「虚妄の成果主義」など、例をあげればきりがない。

   人事政策には企業文化を形成していく役割がある。企業戦略を達成するためには、異なる価値観を持った従業員に対して、価値観を共有する為の人事制度を与えることが必要になる。このことは、演奏者に同じ楽譜を配られて、初めてベートーベンの第五楽章やショパンの英雄ポロネーズが奏でられることと、同じである。各自が自分勝手に演奏しはじめたら、協奏曲にならない。

   企業文化は、その国の文化や歴史的背景に多く関係してくる。従って、根本的な考え方や価値観の違いを検証することなしに、欧米のうわべだけの制度を導入してもうまくいかない。また、経済環境や社会環境が変われば、昔のままの、制度をそのまま運用していっても、うまくはいかない。人事政策も環境に合わせて進化させていかなければならない。


次回は

   年功序列下では、人材価値の可視化は簡単であった。企業にとって、「勤続年数」こそが人材価値そのものだったからだ。それでは、「勤続年数」に代わる、能力評価を欧米諸国ではどのように行なっているのだろうか。次回は欧米の人事制度と、人材価値の可視化の為に、人材情報システムでしか成し得ない役割について述べてみたい。欧米企業を中心とするERP(Enterprise Resource Planning)のようなデータの統合システムがなぜ現れたかの理由もここにある。

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日本ピープルソフト社 小河原 直樹
著者プロフィール
日本ピープルソフト株式会社  小河原 直樹
米国Baylor大学大学院国際ジャーナリズム学科卒業後、SAPジャパン(株)にHRコンサルタントとして入社。その後、外資系金融企業で日本及びアジア地域の人事責任者として勤務。現在日本ピープルソフト(株)でHCM Global Product Strategy. Senior Managerとして日本の製品戦略の責任者。


INDEX
第2回:日本と欧米の人材マネジメント
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成果主義の実態