「統合業務管理型のERPパッケージ(注1)」が、「業務データ連携型ERPパッケージ(注2)」と比較して、製品的に差別化されるポイントは、財務会計、人事給与、販売管理、生産管理、物流管理、在庫管理など、企業のアクティビティに関わる様々な商流において派生するデータを統合管理する点にある。
※注1:
SAPやOracleなど各業務で統一したデータベースによる管理がなされるERP
※注2:
OBIC7やGLOVIA-Cなど各業務のデータをマスターレベルで連携させるERP
例えば、販売実績が管理会計へリアルタイムで反映させることができることから、統合業務管理型ERPパッケージを導入すれば、営業、生産、物流、財務といった各部門計画と実績を戦略、管理、運用レベルで統合することができる。
その結果、業務プロセスの効率化、ビジネス上の問題・課題の早期発見といった企業経営をサポートし、経営判断のスピードを速めることが可能となる。リアルタイムに会計と生産や販売といった情報が統合管理されることで、在庫の適性管理などコスト面での効果も大きいとされている。
しかし、本当に統合業務管理型ERPパッケージを導入した企業において、ERPの投資によるROIは出ているのだろうか。統合業務管理型ERPパッケージベンダーが標榜するように、ERPの導入は企業価値を高め加速させるのだろうか?
実際に統合業務管理型のERPパッケージを導入したユーザ企業の多くは、「財務会計」にERPを導入していても、販売管理や生産管理といった業務でERPを導入していない企業の方が多い。
図2:企業ユーザにおける基幹システムの導入方法
出典:ミドルマーケット(中堅企業)におけるERP及び拡張ソリューションの導入実態と今後の展望2003年版
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
図2は矢野経済研究所にて、2003年9月10日〜10月20日にかけて実施したアンケート調査の集計結果である。回答企業の年商は100億円〜1,000億円の中堅企業というバイアスがかかるものの、アンケート調査対象外だった年商1,001億円以上または年商100億円未満の企業において、上記の調査結果と大きく「基幹システムの導入方法」のトレンドが違うとは考えにくい。
要するに、財務会計や人事給与においては全企業の約6割でERPを含むパッケージを活用したシステムの構築を行っているが、販売管理や生産管理では「自社開発型」で基幹システムを構築する企業が全体の約6割である、といえる。
企業価値を高めるためにERPの導入を行うのだとしたら、なぜ生産や販売といった基幹業務にERPを導入しないのだろうか?
この理由については、様々な理由があげられると思うが、端的にいえば「ERPパッケージの機能では自社業務の適用率が低いため」とする回答がユーザ調査結果において最も多い。
統合業務管理型ERPパッケージは、上述のように「営業、生産、物流、財務といった各部門計画と実績を戦略、管理、運用レベルで統合することができる」のであって、財務会計や人事給与といった一部の業務に統合業務管理型のERPパッケージを導入しても、「統合業務管理型ERP製品」の性能を発揮することができない。
そもそも財務会計や人事給与にERPを導入しても、それは「バックオフィスへのERP導入」に過ぎず、企業の競争力を高めるための情報投資ではない。なぜならば、バックオフィスは企業の管理部門であり売上を上げる部門ではないからだ。バックオフィス部門は情報投資を含めて「コストの削減」をどこまでやりきるか?が問われる部門である。
一方、「生産」や「販売」部門はまさしく市場競争をしているのであって、「生産」や「販売」に関する情報や、そこに付随する「在庫」「物流」「購買・仕入」といった業務を如何にリアルタイムに連携させるか?が、統合業務管理型ERPパッケージの真骨頂といえよう。
これらの考察を前提とするならば、ユーザ企業向けのアンケート結果からいえることは「統合業務管理型ERPパッケージの効果に見合う導入を行っている企業は全体の10%弱(販売や生産管理の導入率を鑑みての推定)、さらに統合業務管理型ERPパッケージの導入(IT投資)に見合うROIを実現できている企業となるとわずか数%であろう。
「自社業務への適用率が低い」という事実が、統合業務管理型ERPパッケージを生産管理や販売管理部門での導入を阻む最大の要因なのだとすると、統合業務管理型ERPパッケージの主要プレーヤである外資系SIベンダーとしては、グローバルに製品展開を行う中で「日本というマーケットをどう位置づけるのか?」、また「日本固有の商流にどこまで対応して業務適用率を上げていくのか?」といった、古くて新しい課題が見えてくる。
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