TOPシステムトレンド> 法令でOSSを推奨するイタリア
世界各国政府のオープンソース採用動向
世界各国政府のオープンソース採用動向

第2回:欧州編(後編)
著者:三菱総合研究所  比屋根 一雄   2005/3/11
前のページ  1  2
法令でOSSを推奨するイタリア

   イタリアはオープンソースを政策的に推奨している国です。政府のIT調達に関する法案が2003年12月に採択されています(表2)。その前文に次のような一節があります。「この法の主目的は公的機関のIT調達において技術的・運用面の基準を示すことであり、主たる示唆はOSSを含む市場におけるすべての提案を検討せよということである。」少しわかりにくいのですが、OSSが選択肢から排除されないことを目的としています。では、そのいくつかの法案を紹介しましょう。
  • 公的機関は必ずOSSを含むすべてのソフトウェアを検討せよ
  • 単一の供給元/単一の企業が有する技術に依存しないようにせよ
  • 最低限検査およびトレーサビリティ(追跡)の目的ためにはソースコードにアクセスできるようにせよ
  • ドキュメントは多くの形式で提供せよ(最低一つはオープン形式にせよ)
  • 委託開発ソフトウェアの所有権を取得し、他の公的機関が利用する際には、追加コストが不要になるようにせよ
  • 可能な限り公的機関はソフトウェアの再利用ができるようにせよ

表2:イタリア政府IT採用法案例

   これら個々の基準は直接OSSを優遇しているようには見えませんが、総体的にはOSSをかなり優遇することになっています。

   また、イタリアではいくつかの地方政府が条例でOSS優遇を定めています。トスカーナ州で2004年に制定された条例では、OSSベースのソリューションの利用を促進、支持、推奨とあります。その目的は、相互運用性、再利用、リソース最適化、データ処理の可視化です。さらにOSS活用の利点を意識させるための教育も推奨しています。

   エミリア・ロマーニャ州の2004年5月の条例では、住民のプラットフォーム選択の自由、データアクセスの自由を保証するために、オープン形式とOSSを推奨するとあります。

   欧州連合のオープンソースデスクトップを利用する実証実験プロジェクトConsortium for Open Source in tht Public Administration(COSPA)には、ピサとジェノバの2地方政府が参加しています。実験の第1段階として、OpenOffice.orgに焦点が当てられています。その第1歩として、ジェノバでは150名のPCにOpenOffice.orgを導入し、職員に8時間ずつの研修を行いました。2005年12月までこの実験が続けられます。


その他の欧州政府の動き
スペインのデスクトップLinux PC大規模導入

   スペイン西部のエストレマドゥラ州では、世界最大のデスクトップLinux PC配備プロジェクトが進行中です。同州は情報技術とインターネット活用の遅れた地域でした。そこで、州内の全教育機関にLinux PCを導入するプロジェクト「Extremadura gnuLinEx Strategy」が同州教育科学技術大臣の主導の下、2002年から始まりました。中学校では合計66,000台、小学校では21,000台を導入し、中学校は児童2名に1台の割合です。


オランダでは政府がOSSの利用を推進

   オランダ政府は、オープンスタンダードとオープンソースの活用に関するシンポジウムを2004年に開催した。水道局連盟などが、内務大臣から「オランダの最もOpenな政府機関賞」が授与されました。 この賞は最も実用的かつ革新的なOSSとオープン標準の利用を行った政府機関を表彰するものです。オランダでは、数多くの公的機関がOSSをすでに活用しています。

   オランダ政府自身も電子投票システムのソースコードを公開したり、オランダ犯罪科学研究所が携帯電話やPDAに保存されたデータを取り出すソフトウェアをオープンソースで公開したり、積極的にオープンソースに関わっています。


ノルウェー・ベルゲン市もLinuxへ全面移行計画

   ノルウェー第2の都市ベルゲンは2004年6月、WindowsとUNIXサーバを整理統合し、Linuxに入れ替える方針を決定しました。まず、大学などの教育機関のサーバから始め、将来的にデスクトップPCの移行も検討されています。


スイス政府がオープンソース戦略を発表

   スイス政府のIT協議会は、2004年3月にオープンソース戦略を発表しました。OSSと市販ソフトを同等に扱うこと、委託開発ソフトは他の公的機関とOSSとして共有することに加え、OSS採用を成功させるために事前に検討作業を行うことが挙げられています。また、潜在的にLinuxデスクトップが政府標準PCとなることも含まれていますが、現時点ではまだデスクトップには導入されていないとのことです。このオープンソース戦略は2007年末までに発効される予定です。


(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)


前のページ  1  2


三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  比屋根 一雄
情報技術研究部  主席研究員
1988年(株)三菱総合研究所入社。先端情報技術の研究開発および技術動向調査に従事。最近は「OSS技術者の人材評価調査」「日本のOSS開発者調査FLOSS-JP」「学校OSSデスクトップ実証実験」等、OSS政策やOSS技術者育成に関わる事業に携わる。著書に、「これからのIT革命」、「全予測情報革命」、「全予測先端技術」(いずれも共著)などがある。「オープンソースと政府」週刊ITコラム「Take ITEasy」を主宰。


INDEX
第2回:欧州編(後編)
  中立を保つイギリス
法令でOSSを推奨するイタリア