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世界各国政府のオープンソース採用動向
世界各国政府のオープンソース採用動向

第2回:欧州編(後編)
著者:三菱総合研究所  比屋根 一雄   2005/3/11
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中立を保つイギリス

   イギリスの公的機関はドイツ・フランスに比べると、オープンソースに対してやや保守的です。イギリス政府内でもオープンソースの採用は始まっているようですが、大企業を優先して知名度で判断するという文化の障害に直面しているとのことです。

   2002年にイギリス政府の通商庁(OGC)からOSS利用ポリシーが発行されました。2004年には改訂され、表1の5項目がその中心です。
  • IT調達契約は費用対効果で考え、商用と同時にOSSを検討すべき
  • 相互運用性確保のためオープン標準・仕様を満たす製品のみ使用せよ
  • 商用製品・サービスへのロックインを避けよ
  • 受託開発ソフト、パッケージのカスタマイズに関する全権利を取得せよ
  • 政府資金による研究開発成果はOSSを原則とする可能性を検討せよ

表1:イギリス政府のOSSポリシーにおける5つの基本方針


   最初の1は少し説明が必要でしょう。イギリスに限らずベンダーは調達の際に自社製品を提案してきます。オープンソースに対する不安や技術力不足、あるいは利益率確保のために商用製品を押してくることも多いようです。このためオープンソースの提案が1つもないことが珍しくもありません。この状況を打破するために、オープンソースを利用した提案も必ず検討するようにという指示です。つまり、少なくとも同じ土俵で扱いなさいということです。

   OGC自身も、2003年に全省庁が利用する新しいオンライン調達システムに、Linuxを採用すると発表しました。イギリス政府で最初の大規模な基幹システムへの導入です。このシステムは2004年に正式稼働したようです。

   また、OGCは他の公的機関の支援も行っています。オープンソースの利点を証明するためにOffice of the e-Envoryと連携して、「Proof of Concept」と呼ばれるトライアル・プロジェクトに着手しました。

   その代表的な例として、Powy市議会では認証系をOpenLDAPに統合し、中央スコットランド警察では、オープンソースを利用した文書管理システムが稼働します。他にも様々なオープンソースを採用したシステムが導入されています。2004年から複数の中央省庁でデスクトップを含んだオープンソースの試験導入が行われています。SunのLinuxデスクトップを導入し、低価格かつシステム管理者の負荷を軽減することを目標にしています。

イギリス政府のOSSポリシーにおける5つの基本方針

   しかし、イギリスの政府機関では、まだ本格的なオープンソース導入には至っていないと思われます。

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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  比屋根 一雄
情報技術研究部  主席研究員
1988年(株)三菱総合研究所入社。先端情報技術の研究開発および技術動向調査に従事。最近は「OSS技術者の人材評価調査」「日本のOSS開発者調査FLOSS-JP」「学校OSSデスクトップ実証実験」等、OSS政策やOSS技術者育成に関わる事業に携わる。著書に、「これからのIT革命」、「全予測情報革命」、「全予測先端技術」(いずれも共著)などがある。「オープンソースと政府」週刊ITコラム「Take ITEasy」を主宰。


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