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世界各国政府のオープンソース採用動向
世界各国政府のオープンソース採用動向

第3回:米国・南米編
著者:三菱総合研究所  比屋根 一雄   2005/4/4
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州政府におけるオープンソース調達

   連邦政府では、オープンソースの政府調達関連法案はまったく審議されていませんが、州政府レベルでは何回か検討されています。カリフォルニア州やオクラホマ州では州政府のシステム調達にオープンソースを義務付けようとする急進的な法案が議会に提出されましたが、すぐさま廃案になりました。

   2003年に入りオレゴン州とテキサス州において、興味深い法案が提出されました。これは政府調達時にオープンソースもプロプラエタリと同様に扱うこと、単にこれだけを要求する法案です。オープンソースソフトウェアはプロプラエタリと異なり、自ら積極的に営業しないことが多いため、最初から検討外に扱われることが多かったのです。これを改め、オープンソースも必ず検討候補に含めるようにする法案です。

   オープンソース陣営からみれば正当な要求ではありますが、商用ソフトウェアベンダー陣営は議会で強硬な反対ロビー活動を展開しました。激しい議論の末、オレゴン州では廃案になり、テキサス州は継続審議となっています。同様の法案は、カリフォルニア州やハワイ州でも提出されましたが、いずれも成立することはありませんでした。

   米国では、わずかでもオープンソースを優遇する法案の成立は極めて困難な状況にあるといえるでしょう。ヨーロッパでは、既にどのようにオープンソースを利用するかという実装論議の時代に入っているのに比べ、あまりにも対照的です。


州政府システムのオープンソース化をはかるマサチューセッツ州

   調達法案や政策レベルでの取り扱いがなくとも、州政府でも実質的にオープンソースの導入は進んでいます。州政府の中で最も先進的な州はマサチューセッツ州です。

   マサチューセッツ州は、インターネットバブル崩壊以降、税収は落ち込み、数多く存在するレガシーシステムの保守が困難になってきていました。そこで、2003年に各部署の代表者と民間企業から25名のメンバーを集め、ボランティアのIT委員会を立ち上げました。その後、この委員会は各部署のCIOを集めた「CIOキッチン・キャビネット」へと発展し、課題の優先順位を検討する場となります。

   2003年9月、CIO会議で1つの重要な決定がなされました。それは、将来のIT投資・運用のための総合的なポリシーであり、新しいアプリケーションはオープンスタンダードとオープンソースに従うべきであり、既存アプリケーションはオープンスタンダードとオープンソースにカプセル化するか移行するために評価するというものでした。ここで重要なのは、他州のオープンソース採用ポリシーが議会から法案として提案されたものであるのに対し、マサチューセッツ州の場合には、州政府組織の内部から生まれたポリシーであることです。

   このポリシーを受け、最初にオープンソースベースで開発されたのが、Virtual Law Officeです。このシステムは、メインフレーム上の仮想マシンとしてSUSE Linux 8、IBMのIAサーバxSeries上でRed Hat Advanced Server 2.1を使ったJavaアプリケーションとして開発されました。

   マサチューセッツ州は、自らのオープンソースベースの開発経験から、他の地方政府とソースコードを共有する枠組みの必要性に気づき、ソースコード共有の枠組みを検討し、著作権問題などを扱う法的枠組みも作成しました。そして、2003年12月にオープンソースのコードリポジトリGOCC(Government Open Code Collaborative)を立ち上げました。

   現在GOCCでは、マサチューセッツ、ロードアイランド、ミズーリ、ペンシルバニア、ユタ、カンザス、ヴァージニア、ウェストバージニアの各州など11の公的機関が参加しています。また、MITとハーバード大学が技術的・法的側面から支援を行っています。

   マサチューセッツ州のCIOであるPeter Quinn氏は、オープンソースの採用に関して次のように述べています。

   「オープンソースベースの開発に関しては、大学との協力は有効であり、オープンソースソフトウェア採用を成功させるには政府内だけで考えるのではなく、コミュニティを広げることが重要であろう。地方政府の活動は互いに競合しないため、ソースコード共有は有効な低コスト化である。オープンソースは持続性のあるITコスト構造を得るための1つの道である。現在(レガシーシステム)のコスト構造では、政府は将来に渡ってITシステムを維持できないのだから。また、GOCCは一度開発すれば多数が再利用できるモデルであり、コミュニティを通じイノベーションを加速することが期待できる。共有することで、持続的な共同開発が可能になる」

州政府の一部にOSS採用の動き
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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  比屋根 一雄
情報技術研究部  主席研究員
1988年(株)三菱総合研究所入社。先端情報技術の研究開発および技術動向調査に従事。最近は「OSS技術者の人材評価調査」「日本のOSS開発者調査FLOSS-JP」「学校OSSデスクトップ実証実験」等、OSS政策やOSS技術者育成に関わる事業に携わる。著書に、「これからのIT革命」、「全予測情報革命」、「全予測先端技術」(いずれも共著)などがある。「オープンソースと政府」週刊ITコラム「Take IT Easy」を主宰。


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