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世界各国政府のオープンソース採用動向
世界各国政府のオープンソース採用動向

第3回:米国・南米編
著者:三菱総合研究所  比屋根 一雄   2005/4/4
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米国政府・州政府のオープンソース採用動向

   米国政府はNSF(全米科学財団)やDARPA(国防高等研究計画局)などを通じて、オープンソースソフトウェアの研究開発には長年に渡って多方面から支援してきており、その貢献は大きいものがあります。オープンソースの基になったフリーソフトウェア運動は当時MIT(マサチューセッツ工科大学)にいたRichard Stallmanがはじめたものですし、運動の成果であるGNUソフトウェア群の多くは米国で開発されたものです。しかし、現時点で米国政府自身によるオープンソースソフトウェアの利用は浸透してきているものの、基幹システムにおける組織だった採用はようやく進みはじめた段階といえます。

   ただし、昨今IBM社やHP社がLinuxシステムに注力していることから、実質的にオープンソースシステムの利用は広がっています。2002年5月の国防総省から委託されたMITRE(国防の総省系の非営利調査機関)の調査によると、249の政府機関でオープンソースのシステムが利用されています。これらには空軍、海兵隊、海軍調査所などが含まれます。2002年5月、IBM社やHP社は空軍、国防総省、農務省、エネルギー省、連邦航空局などに販売したと発表しました。

   米国政府への導入が進まない理由の1つとして、オープンソースソフトウェアは正式な承認を取ろうとしなかったため、政府調達品リストに載っていないことが挙げられます。しかし、本当の理由は世界で最も強大な米国ソフトウェア産業界がオープンソースソフトウェアに対する優遇措置に強硬に反発しているからでしょう。


政府のオープンソース採用をすすめる運動

   政府におけるオープンソース利用を推奨するレポートがいくつか発表されています。大統領の情報技術諮問委員会(PITAC)は、2000年9月に「高性能コンピューティングのためのオープンソースソフトウェアの推奨」というレポートを発表しました。少なくとも高性能コンピューティング分野においては、オープンソースも政府が注力すべき1つの方法論であることがはじめて示されました。

   2001年7月と2002年10月に、MITREはオープンソースおよびフリーソフトウェア(FOSS)は一般に認識されているよりも、国防総省において重要な役割を果たすと述べました。特に、インフラサポート、ソフトウェア開発、セキュリティ、研究の4分野においては重要であると示しました。FOSSはプロプラエタリ・ソフトウェアと比べ低コストであるだけでなく、しばしば高機能性をも提供します。FOSSを排除すれば価格と品質の重要な競争源を失い、クローズドソースベンダーのサポートコストは肥大し、ロックインされたユーザにのしかかるだろうと結んでいます。

   現在、政府におけるオープンソース採用を進める活動の中心は、ジョージ・ワシントン大学のサイバースペース・セキュリティ政策研究所(CSPRI)です。CSPRIは米国など20ヶ国で採用されている技術評価基準である「Common Criteria(ISO15408)」にLinuxを認定させる計画を2003年頃からはじめ、2004年8月にRed Hat Enterprise LinuxがEAL Level 3の認定を受けました。

   また、IBMとNovellは2005年2月にIBMのeServer上で稼動するSUSE Linux Enterprise Server 9がソフトウェア製品では最高レベルのEAL Level 4+に認定されました。既に商用UNIXやWindows 2000はEAL 4を取得済みであり、政府の基幹システム市場で、Linuxもやっと商用製品と同等の競争ができるようになりました。

   また、CSPRIは「オープンソースと政府」に関する国際会議を主催し、世界各国のオープンソース政策についての一大中心地になってもいます。


対象OS Common Criteria
認定状況
時期
SUSE Linux Enterprise Server 9 EAL 4+ 2005/02/17
SUSE Linux Enterprise Server 8 EAL 3 2004/01/01
SUSE Linux Enterprise Server 8 EAL 2 2002/02/01
Red Hat Enterprise Linux AS 3 EAL 3 2004/09/01
Red Hat Enterprise Linux 3 EAL 2 2004/02/01
Mandrake Linux EAL 5取得を目指す
3年計画が始動
2004/09/01
Sun Solaris 9 EAL 4 2005/01/01
Sun Solaris 8 EAL 4 2003/04/01
Sun Trusted Solaris 8 EAL 4 2002/06/01
IBM AIX 5L EAL 4 2004/04/01
HP HP-UX 11 EAL 4 2001/09/01
Windows 2000 EAL 4 2002/10/01

セキュリティ評価基準Common Criteria認定の動き


   この運動が効を奏してか、2003年6月に国防総省はついにオープンソースの利用にお墨付きを与えました。これではじめて政府機関においてオープンソースが商用ソフトウェアと同じ土俵で勝負できるようになったわけです。実際、政府機関へのIT導入を主業務とするDigitalNetによると、国防総省はLinux導入に積極的であり、Tomcat向けに膨大なレガシーデータを移行する業務を海軍から受託したそうです。JavaはEclipseと共に政府関連顧客が利用する最重要コンポーネントであるといっています。

   また、Linuxベンダーの動きとして、2004年7月に米国政府共通役務庁(GSA)のSmartBUYプログラムにSUSE Linuxを販売するNovellが参加したことは重要な意味を持つかもしれません。SmartBUYは各省庁・部門の個別購入に代わり、窓口を一元化して大量購入割引を得るものです。Linuxサーバを導入する際に、政府のお墨付きが得られているため手続きが簡単になり、しかも低価格で購入できるとなれば、Linux導入に弾みがつく可能性があります。

政府のオープンソース採用をすすめる運動
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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  比屋根 一雄
情報技術研究部  主席研究員
1988年(株)三菱総合研究所入社。先端情報技術の研究開発および技術動向調査に従事。最近は「OSS技術者の人材評価調査」「日本のOSS開発者調査FLOSS-JP」「学校OSSデスクトップ実証実験」等、OSS政策やOSS技術者育成に関わる事業に携わる。著書に、「これからのIT革命」、「全予測情報革命」、「全予測先端技術」(いずれも共著)などがある。「オープンソースと政府」週刊ITコラム「Take IT Easy」を主宰。


INDEX
第3回:米国・南米編
米国政府・州政府のオープンソース採用動向
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