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OSDS
教育現場におけるオープンソース実証実験

第1回:OSDS実験の概要
著者:三菱総合研究所  飯尾 淳   2005/7/22
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学校にLinuxを導入する意義

   表4にあげた障害の対応状況から判断すると教育現場への導入は比較的容易だろうという理由だけで、Linuxを導入する最初の対象として小中学校を選んだわけではありません。

   現状では学校で利用されているPCのほとんどがWindowsで、一部の学校で部分的にMacintoshが導入されていることもある、という状況です。しかし教育の公平性の観点から評価すれば、これは由々しき事態ではないでしょうか?時代の流れからしてもIT活用教育は推進されるべきですが、Windows活用教育(あるいはMacintosh活用教育)であってはならない、ということです。

   OSDSに参加した岐阜県の教育委員会では、以前から教材コンテンツのマルチプラットフォーム対応に留意して教材開発を進めていました。今回の実験で、これまで作ってきたコンテンツはほぼ問題なくLinuxでも利用することができ「意義深かった」という評価も得られています。

   なお小中学校では、あくまで教科を学習するためのツールとしてPCが利用されるのであり、PCの操作や原理そのものを学ぶために導入されるわけではない、ということをここで強調しておきます。とくに低学年の児童たちはOSがWindowsかLinuxかは全く気にしていません。せいぜい「いつもと違うな?」程度です。ニンテンドーとプレイステーションの違い程にも感じていないようでした。

   また政府の立場からすれば、「学校でずっと特定のOSを使ってきたから、それしか分からない」というユーザレベルのベンダーロックインを避けることも重要でしょう。


教育現場への導入に関する検討材料

   さて、OSDSの開始にあたり、何に気をつけてプロジェクトを遂行しなければならないかを検討しました。導入対象として設定した小中学校の状況を取材し、注意すべき点としていくつかの項目をあげています。

   表5はプロジェクト開始以前に指摘されたLinux導入のポイントと、OSDSを半年続けた結果、身をもって理解した状況を比べたものです。実際には各学校で状況が異なっていることもあり、やってみないと分からないことも多く、苦労しました。

ポイント 結果 備考
学校で使われているアプリケーションは少数である × 様々な教材アプリケーションが教員の工夫や教育委員会の指導のもと利用されている
学校で使用されるS/WはLinuxでもサポートされつつある 一太郎 for Linuxの使い勝手で明暗が分かれる
H/Wは一括購入されるので、機種を限定することができる 既存環境との混在が課題
一部を除き、教員のITスキルはそれほど高くはない 一部のITスキルの高いキーマンがいると、導入は比較的容易になる
セキュリティ対策に関心はあるが、予算および管理の時間が取れないので対策は不十分  
システム管理は空き時間に行なわれており、かなりの負担になっている 管理体制は学校により様々
サポート付きのソフトウェアが好まれる。運用コストを支払い難い傾向にある サポート付きレンタルで対処するなど、学校ごとに工夫している
IT教育には力が入れられており、ひとり1台の個人用システムが望まれている IT教育ではなく、IT活用教育。またひとり1台使えることは非常に重要視されているが、アカウント管理まで実施している学校は少ない

表5:事前に検討したポイントと実際の状況


実証実験の概要

   OSDSでは、つくば市の5校の小中学校とつくば市教育委員会に185台、また岐阜県の小中学校に122台のPCを配布し、それぞれのPCにLinuxをインストールしたうえでデスクトップ端末として利用してもらいました。利用したディストリビューションは、つくば市がSun Java Desktop System、岐阜県がTurbolinux 10 Desktopです。また十文字学園女子大学でも、リムーバブルハードディスクを利用してTurbolinuxをインストールし、実際に利用したうえで使用感を評価する小規模な実験が行なわれました。

   つくば市、岐阜県いずれにおいても、サポートの軽減をはかるための工夫が取り入れられています。つくば市では、生徒用のPCを一括管理するクラスルームPC管理ソフトウェアを開発、本システムによりサポートおよび教員自身による管理の負荷を低減する試みが実践されました。

   一方の岐阜県では、電話回線を介した遠隔操作によるリモート管理を実践し、費用のかさむ出張サポートを極力削減することで、サポートコストを抑えることに成功しました。


実験成果の公開

   本連載では、つくば市と岐阜県での実験の詳細、開発したクラスルームPC管理ソフトウェア、実験に参加した教員および児童・生徒による評価などについて解説していきます。

   成果公開用のウェブサイトには、実施報告書の概要や実施報告書の一部抜粋、実践事例、関連資料などが掲載されています。興味のある方は、OSDS実験の成果を公開しているサイトにアクセスしてみて下さい。

2004年度「学校教育現場におけるオープンソースソフトウェア活用に向けての実証実験」
http://www.ipa.go.jp/software/open/2004/stc/mri/index.html

   次回は、つくば市で実施された実証実験の様子を紹介します。

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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  飯尾 淳
情報技術研究部  主任研究員
1994年(株)三菱総合研究所入社。並列計算機関連、ソフトウェア工学、音響・画像処理関連と幅広いテーマで先端情報技術の研究開発業務に従事。専門は、画像処理とユーザインタフェース。著書に「Linuxによる画像処理プログラミング」、「リブレソフトウェアの利用と開発〜IT技術者のためのオープンソース活用ガイド〜」など。技術士(情報工学部門)。


INDEX
第1回:OSDS実験の概要
  はじめに
  OSDSの背景
学校にLinuxを導入する意義