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RFIDによるシステム構築

第4回:RFIDプライバシー問題と今後の展望
著者:野村総合研究所  藤吉 栄二   2006/4/25
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はじめに

   最終回となる今回は、まずはコンシューマサービスにおけるRFIDの利用を検討する際に話題となるプラバシー問題を取り上げる。次にEPCグローバルとユビキタスIDセンターに関する話題を取り上げ、そして最後に今後の展望を総括する。
アイテムレベルタギングとプライバシー

   これまでにRFIDタグの利用先として、サプライチェーンは期待が大きいと紹介した。現在のサプライチェーンでのRFIDの利用は、パレットやケースにRFIDタグを貼り付けて出荷・検品に利用するという方法である。今後、店頭で販売される個々の商品にRFIDタグが貼り付けられた場合、すなわちアイテムレベルタギングが実現した場合は、バーコードでは実現できなかった様々な利活用が可能になるため、期待が高い。

   世界最大手の小売であるウォルマートの場合、2005年度の売り上げは2,852億ドル、店舗数は5,289店舗に達しおり、取り扱う商材は10万アイテムにのぼるといわれている。他の米小売、国内小売業者が取り扱う商品全部にRFIDタグが付与された場合には、莫大な市場が創出されることは想像に難くない。

   とはいうものの、アイテムレベルタギング実現への道のりは険しい。まず、バーコードの代替として消費財に貼り付ける場合には、RFIDタグは使い捨てとなる可能性が高いため、環境への配慮が必要になる。また、現状のテクノロジで実現可能な最低単価5円のRFIDタグに比べて、バーコードはインク代、すなわち、ほとんどどタダであるためコストだけでは太刀打ちできない。

   しかし、RFIDタグのコストに勝るやも知れぬメリットもある。「無線」とアイテムタギングによる「個体識別」が実現した際には、店頭の陳列棚で商品をスキャンして欠品確認や棚卸の自動化、顧客への情報提供、レジでの一括自動精算、さらには家庭に持ち帰った後の情報サービスの提供(例えば、賞味期限の自動管理やトレサビ情報の閲覧)などの様々な可能性がある。

   ここで、アイテムタギングが実現し、RFIDを用いた新たな顧客サービスの実現を語る際に必ずといってよい程提起されるのが、プラバシー問題である。


不買運動へと拡大したRFIDプライバシー問題

   2003年に服飾ブランドのベネトンと大手ITベンダーのフィリップスがベネトン製自社ブランド商品にRFIDタグを取り付けるとプレスリリースを発表した。これに対して、プライバシーの擁護組織が抗議をするとともにベネトン製品の不買運動を起こした。この事態を収拾させるため、ベネトンは自社の計画がまだ実行されておらず、RFIDタグが商品に貼り付けられてないことを釈明し、事実上の撤回宣言を行う事態となった。

   本件で注目をあび、その後も積極的なプライバシー擁護活動を行っているのが、CASPIAN(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering)である。ベネトンの不買運動の際は、映画「マイノリティ・レポート」になぞらえて監視社会の到来だと批判した。ジレット社が英テスコの店頭で髭剃りの替え刃の盗難防止実証実験を行った際にも、Webサイトを通じてジレット製品の不買運動を行っている。

   RFIDタグを利用すれば、何でもプライバシー侵害にあたるかえといえばそれは違う。問題視されているのは、アイテムレベルでのRFIDタグの利用か、オープン領域での利用か、購買後にRFIDタグが読み取れる状態にあるかといった点がプライバシー侵害を考慮する際のポイントとなる。

   2004年6月には経済産業省と総務省の共同でRFIDタグ利用に関するプライバシーガイドラインとして「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」を公表しているので関心ある方は参照いただきたい。

電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン
http://www.meti.go.jp/policy/consumer/press/0005294/

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野村総合研究所  藤吉 栄二
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所   藤吉 栄二
情報技術本部 技術調査室 副主任研究員
1995年大阪大学理学部物理学科卒業後、大手電機メーカー系ソフトハウスにて無線技術の研究開発に従事。2001年に野村総合研究所に入社。情報技術本部にてIT動向の調査を実施。専門は、RFID、ICカード、無線LANなどモバイル関連技術。


INDEX
第4回:RFIDプライバシー問題と今後の展望
はじめに
  EPCとucode〜競合か共存か
  RFIDのメリットを再考する