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オープンソースの適用可能性を示す
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第2回:DB管理ツールを例にOSSの現在の実力を診断する
著者:ユヒーロ  伊藤 寛之   2006/3/20
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企業情報システムの命題

   インターネットの普及に従い、ネットに接続されている企業システムが取り扱う情報量は爆発的に増加した。この溢れんばかりの情報を、DBでいかに効率的に管理するかが、「今日の企業情報システムの命題」であるといっても過言ではないだろう。

   そのためには、以下の3つの課題を解決しながら、DBの構築と運用を進めていく必要がある。
  1. 多数のDBサーバを最小限のDB管理者で管理・運営できること
  2. 複数種類のDBMSが混在可能なこと
  3. 運用管理を支援する、多機能で使いやすく、安価なツールの導入

表1:企業情報システムの命題

   今回は、大手証券会社とベンチャー企業、DBMSベンダーでの筆者の業務経験に基づき、企業システムにおけるDBの運用管理の問題点を分析。さらに、システムにおけるオープンソースソフト(OSS)のDBについて概観する。その上で、上述の3つの課題を解決しながら、DBの可用性とセキュリティ、パフォーマンスを横断的に監視する方法について提案する。


大企業とベンチャー企業ではDB管理の課題が異なる

   まず、大手ユーザ企業のDB管理者の業務について触れておく。

   大企業では、非常に大規模なDB群を運用しなければならない。本運用のDBサーバだけでも、複数種類、数10台は稼働していると見られる。

   DB管理者の業務は、DBの新規構築や運用、監視など多岐にわたる。もちろん、それらDBサーバのすべては稼働中であり、連続安定稼働が求められる。もし1つのDBサーバに問題が起きれば、大きな機会損失を招いてしまう恐れがあるからだ。

   だが多くの企業では、それだけのミッションクリティカルな使命を担うDB管理者の数が、極端に不足している。

   続いて、ベンチャー企業の監視業務を見てみよう。

   ベンチャー企業における主な監視業務は、オープン系システムが対象だ。オープン系の技術に長けた少数のエンジニアが独自構築した、複数のOSSの組み合わせによる、複雑なシステム環境であるケースが大半だろう。

   このようなシステム環境上での監視業務は、ある程度厳密な監視体制を組んだ上で実施されることになる。24時間365日の有人監視体制を敷いたケースも決して稀ではない。特にベンチャー企業の場合、厳密な監視体制による運用監視品質の担保は、顧客の信頼を得る上で避けて通れない。

   こういったOSS活用による厳密な運用監視体制は、一見ベンチャーゆえの特性をいかした、メリットのある体制のように思える。

   だが実際は、デメリットもまた大きい。たとえば事業の成長とシステム規模の拡大に伴う監視業務担当者の増員だ。前段であげたような体制の下では、新規担当者の初期教育コストが大きな負担となり、業務規模拡大の足カセとなる。また同時に、立ち上げ時の中心メンバーである高スキルエンジニアの領域にまで、新規担当者をキャッチアップさせるために、既存エンジニアを含む社内リソースが費やされ、既存業務に影響がでてしまう。

   立ち上げ時に必要とされる運用監視体制の構築作業と、規模の拡大時に訪れる体制拡張・教育作業、この2つの間に起こるジレンマの解消は、ベンチャー企業における大きな課題だ。

   3番目に、DBMSベンダーのテクニカルサポート業務について述べる。ユーザ企業にすれば、ベンダーのテクニカルサポートに問い合わせる内容は、保有システムにおける特殊な問題に関するものだろう。そうでなければ自力で解決できているはずだし、高価なインシデントを消費する必要もない。

   だが実は、テクニカルサポート側から見ると、ユーザ企業からの問い合わせが特殊な例であることは、めったにない。本社へのエスカレーションを必要とする未知の不具合など、極めて稀だ。ほぼすべての問い合わせは、マニュアルの参照などで対応可能だ。そしてマニュアルに記載された障害とは、DBMSとしても、その内容が検知できるものだといえる。

   つまり、こうした障害の多くは、DBMSが出力しているエラーログ中の警告に気づくことができれば、未然に防げるのだ。意外に思われるかもしれないが、筆者の経験上、エラーログから読み取れる予兆の種類はそれほど多くはない。ユーザ企業が十分に調査できる程度の量に過ぎない。

   つまり多くの運用監視業務においては、未然に防止できた障害を防げておらず、エラーログの監視や対応方法の調査もまた十分ではないのだ。結果、ベンダーのテクニカルサポートに頼ることとなり、トータルのオペレーションコストが高くなってしまっている。


DBMS管理専用に複数OSSの組み合わせで対応

   近年OSSのDBMSは、品質・機能ともに着実に向上している。だがDBMS本体とは別に、そのDBMS専用に設計され、可用性やセキュリティ、パフォーマンスを管理するような運用管理ソフトについては、商用DBMSのように成熟したものはまだ存在しない。

   そこで、既存のネットワーク管理あるいはサーバ管理用OSSを複数組み合わせて使用することになるが、これには2つの問題点がある。


業務体系の欠落

   商用DBMSの運用管理では、その業務体系にまで踏み込んで提案できるものが少なくない。だが、OSSはあくまでソフトウェア技術であるため、それ以外の要素である人や時間の管理までは、まったく考慮されていないといってよい。


複数のOSS間の文化の違い

   これらのOSSは、特定の技術を実装するためにプロジェクトが立ち上がり、その後成長していったケースが多い。そのため統合的なシステム環境をOSSで構築しようとした場合に、各OSSの文化的な違いによる、動作設定方法やログの形式、操作方法の差異が、管理運用業務を複雑かつ困難にする(図1)。

各OSSの持つ文化の違いを九州
図1:各OSSの持つ文化の違いを吸収

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株式会社ユヒーロ 伊藤 寛之
著者プロフィール
株式会社ユヒーロ  伊藤 寛之
2000年慶應大学環境情報学科卒業。大学1年の頃よりオープンソースソフトウェアを利用したシステムの設計、開発、運用に携わる。中堅SI企業に入社後、テクニカルサポート、DB管理者の両面よりサイベースを学ぶ。その時の経験を元に、データベース監視ツール「HiTo!」を開発。同製品の事業化を目指しユヒーロを設立した。2005年よりOSSAJ会員。


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